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糖尿病アカデミー

糖尿病とフットケア

                                                                        No.20

糖尿病性足潰瘍は、重症化すると下肢切断に繋がります。糖尿病性足潰瘍を引き起こさないためのフットケアについて、東京女子医科大学糖尿病センター井倉和紀先生にご解説頂きます。

フットケアの必要性

糖尿病における最も重篤な合併症の一つに下肢切断が挙げられます。下肢切断は、ほとんどの場合、足潰瘍が原因です。足潰瘍は、靴擦れ、熱傷、胼胝(たこ)、巻き爪などから起こってきます。

フットケアの意義は、足を救うこと、救肢であり、具体的には足潰瘍に対する予防と治療が中心になります。下肢切断となった糖尿病のある方は、高い死亡率を有することが知られているため、救肢は生活の質(Quality of Life: QOL) の低下予防のみならず、生命予後の改善にも寄与する可能性があります。そのため、足潰瘍を発症させないための予防的フットケアがとても重要になります。

糖尿病性足潰瘍の疫学

糖尿病があると、靴擦れやちょっとした足の傷でも、悪化しやすく足潰瘍へと進行します。また足潰瘍は治っても再発しやすく、重症化して足の組織が死滅してしまう足壊疽(あしえそ)を引き起こすと、下肢の切断を余儀なくされることも起こりえます。

地域によって異なりますが、糖尿病のある方の約10%に足潰瘍が発症し、そのうち7~20%が下肢の切断に至ると言われています1)。わが国の厚生労働省の平成19 年国民健康・栄養調査によると、糖尿病のある方のうち足壊疽がある方は0.7%でした2)。また下肢切断後の生命予後は極めて不良であり、その死亡率は、術後1年で約30%、3年で約50%、5年で約70%と報告されています3)。

1)Frykberg RG et al.: J Foot Ankle Surg 45: S1-S66, 2006
2)厚生労働省:平成19 年国民健康・栄養調査報告
3) 日本糖尿病学会編:科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン2013 南江堂:130, 2013

足潰瘍を発症しやすい方

糖尿病のある方の中でも足潰瘍を発症しやすいのは、神経障害や足の血流障害がある方、以前に足潰瘍を患ったことがある方、足を切断したことがある方、足に変形がある方、胼胝や足白癬(あしはくせん:水虫)といった皮膚の病気がある方です。足先にジンジン・ピリピリしたしびれ感がある、痛みや熱さ・冷たさを感じにくい、皮膚が乾燥してひび割れている、足首や足指の関節が動きにくい、足が冷たい、皮膚が紫色になるなどの症状がある方は、足潰瘍を発症しやすいので足を毎日よく観察しましょう。

足潰瘍を発症させないための予防的フットケア

足潰瘍の発症には多くの要因が関係しています。将来潰瘍になる可能性が高い「前潰瘍性病変」を早期発見し、早期治療することが足潰瘍を発症させないために重要です。前潰瘍性病変とは何でしょう。爪の異常や胼胝、足白癬などがあります。

(1)爪の異常とネイルケア

爪の異常はとても大事です。爪の肥厚、変形、巻き爪、爪水虫など様々です。爪の異常があると、自分で爪を切ることが難しくなります。特に、糖尿病網膜症によって視力が低下した方では、誤って爪切りで皮膚を切ってしまうこともあり、これが足潰瘍の引き金になることがあります。自分で爪を切るのが難しい場合には、家族に頼んだり、主治医や看護師にネイルケアの方法を相談しましょう。なお、爪切りは、ニッパーや爪やすりで「スクエアオフ」に整えるのが正しい切り方です(図)。

巻き爪は、足に合わない靴や深爪がきっかけとなります。爪が皮膚に刺さり、炎症や感染を起こす場合もあるため、巻き爪はその程度に合わせて、爪の矯正や外科的な治療が必要になります。また、爪には本来巻く性質があり、足の指を踏ん張ることが巻き爪に反発する力となります。普段から自分の足に合った靴を履き、足先をきちんと地面に付け、指に力をかけて歩くことが巻き爪の予防に繋がります。

(2)胼胝(たこ)ケア

胼胝は、圧迫や摩擦などの刺激を、皮膚が繰り返し受けることにより形成されます。厚く硬くなった胼胝を放置すると、さらに圧力がかかり潰瘍を発症します。そのため胼胝を認めた場合、定期的に削ったり、切除する必要があります。ご自分で削ると悪化や傷の原因となることがあるので、まずは主治医に相談しましょう。切除しても再発を繰り返す場合には、歩く時の体重のかかり方や足の変形を評価し、必要に応じて適切な靴や中敷きの作成が必要です。

(3)足白癬と治療

高血糖による易感染性から足白癬になりやすいだけでなく、慢性化や重症化しやすいことがわかっています。足白癬は細菌侵入の経路となり、足潰瘍の原因となるため早期治療が必要です。足白癬というと強いかゆみや、じゅくじゅくとした外見を想像しがちですが、自己判断ではなく皮膚科できちんと診断してもらってから、薬を塗りましょう。また、症状が改善しても、医師の指示した期間は薬を継続して使い、根治を目指しましょう。

セルフケアの必要性

糖尿病性足潰瘍の予防は、普段の血糖管理や足の手入れが大切であり、ご本人の協力なしには実現しません。糖尿病のある方は神経障害によって、足の感覚が鈍くなっているため、傷ができても気が付かなかったり、痛みを感じないことが多いです。1 日に1 回以上、足に異変が起きていないか、しっかり観察する習慣を身に付けましょう。その際に、皮膚の状態も観察することが大切です。神経障害は発汗機能に影響するため、皮膚の乾燥、ひび割れが起きていることもあります。乾燥からかゆみを誘発し、搔き壊して足を傷つけてしまうこともあるので、必要に応じて保湿剤を塗るなど、皮膚の保湿ケアを心がけましょう。

 

おわりに

近年、フットケアに関する関心が高まっており、糖尿病性足潰瘍に対する予防的フットケア、創傷ケアはともに進歩しています。しかし、いまだ糖尿病性足潰瘍から下肢切断に至ってしまう方が多いのが現状です。日頃より足の観察、清潔保持、保湿ケア、正しい靴の選択と履き方、適切な爪の手入れ、外傷予防を心がけ、何かおかしいと思った時点で、医療機関を早めに受診して頂くことが、足を守るためには重要です。

 

井倉和紀先生 井倉 和紀 (いくら かずき)
東京女子医科大学糖尿病センター

監修 内潟 安子 [創刊によせて]
東京女子医科大学
東医療センター 病院長

編集協力
岩﨑 直子、尾形 真規子、北野 滋彦、中神 朋子、馬場園 哲也、廣瀬 晶、福嶋 はるみ、三浦 順之助、柳澤 慶香
(東京女子医科大学糖尿病センター)
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