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糖尿病網膜症

監修:東京女子医科大学 糖尿病センター 眼科 教授 北野 滋彦先生

 

高血糖が長期にわたり持続すると、全身にさまざまな合併症が起こる可能性が高くなります。糖尿病に特徴的な、細い血管が傷む合併症を三大合併症と言い、その1つが眼の奥にある網膜の毛細血管に障害が起こる「糖尿病網膜症」です。

進行すれば、眼底出血や網膜剥離(もうまくはくり)などで目が見えなくなる(失明)のリスクがあるため、高血糖を是正して合併症を防ぎましょう。

患者: 先生、最近、散歩をしていて、木や建物が歪んで見えることが何度かありました。

医師: 眼底検査をしたのは、1年半前ですね。前回はきれいな写真でしたが、もしかしたら進んでしまったかもしれません。今日、検査をしてみましょう。

糖尿病網膜症


網膜は眼の表面(角膜や水晶体)の位置とは反対側、眼底部にあり(図1)、カメラの構造で言うと、光を感じて像をつくるフィルムの働きをします。

図1 目の構造

慢性的に高血糖が持続すると細い毛細血管ほど障害を受けやすくなります。障害を受けた網膜の毛細血管は血栓ができて詰まったり、血管の一部が破れて出血したりします(図2 単純網膜症)。毛細血管が塞がれてしまうと、眼の細胞に栄養を運ぶため血管が拡張したり蛇行したりします(図2 増殖前網膜症)。毛細血管が塞がり、不足した酸素を細胞に運ぶため、新生血管が発生します。新生血管はもろくて簡単に壊れてしまい、大きな出血を繰り返すうちに周囲に増殖膜と呼ばれる線維性の組織が生じます(図2 増殖網膜症)。増殖膜が網膜を引っ張り、網膜剥離を起こすと失明の原因となってしまうため、注意が必要です。

なお、日本人の2型糖尿病患者さんを対象とした研究によると、網膜症の発症頻度は1000人を1年追跡すると38.3人発症しています1)

図2 糖尿病網膜症の進行

単純網膜症

増殖前網膜症

増殖網膜症

東京女子医科大学 糖尿病センター 眼科 教授 北野 滋彦先生 ご提供

糖尿病網膜症はかすみ目からチェック


視界の全体あるいは一部がかすんだり、ぼやけたりすることを「かすみ目」と言います。かすみ目と言っても、実は、一人ひとり見え方が異なります。ピントが合わない、白っぽくかすんで見える、薄い膜がかかったよう、はっきり見えないなど、表現もさまざまです。また、前から歩いて来た人の顔がわからない、新聞が読みにくい、テレビのテロップ(字幕)が読みにくくなったなど、生活の中で、実際の見え方の変化を説明してくださる方もいます。いずれにしても「かすんでぼやけて見えにくい」状態をかすみ目と言います。

他の眼の疾患と現れ方の違い


徐々に目がかすむ─

老眼・近視、白内障、ドライアイ

「日によって目がかすむことがある」、「徐々に見えづらくなってきた」などの症状がある場合には、老眼、白内障、ドライアイなどが疑われます。

糖尿病があると老眼は早く現れることが多いようです。メガネやコンタクトレンズを使っている場合には、度数(老眼・近視)が合っているかどうか検査することをお勧めします。度の合わないメガネやコンタクトレンズを使っていると、目の疲労だけではなく、頭痛や首・肩こりの原因にもなります。

白内障は糖尿病のある方がかかりやすい目の病気の1つです。加齢に加え、高血糖によって水晶体が濁りやすくなります。そのため、糖尿病のある方は、ない方に比べて、白内障を発症する年齢が早いことがわかっています。血糖コントロールが悪いと白内障が進みやすいので注意が必要です。

また、糖尿病のある方では、涙の量やまばたきの回数が少ないので、ドライアイになりやすく、かすみ目を起こすことがあります。ドライアイは、涙と同じような成分の目薬を補給することにより、改善することがあります。

 

急速に目がかすむ─

緑内障、硝子体(しょうしたい)出血、加齢黄斑(おうはん)変性

突然、目がかすむ、見えにくくなった、見えない部分があるなどの場合は、重大な目の病気が潜んでいるかもしれません。急いで眼科を受診してください。

緑内障は、糖尿病がある方では、ない方より発症が多いことがわかっています。また、治療が遅れると失明に至ることもある病気です。緑内障は、かすみ目だけでなく、突然、激しい目の痛みを感じたり、視野に見えない部分があったり、きらきら光るものが見えたりします。

目の中に蚊のようなものが飛ぶのが見えたり[飛蚊症<ひぶんしょう>]、雲がかかったように見えたりするようであれば、硝子体出血かもしれません。目の奥で出血が起こっている可能性があるので、出血の原因を調べ、治療する必要があります。

直線のものがゆがんで見える、見たいところが見えない場合は、加齢黄斑変性が疑われます。

急激な目のかすみや見え方に変化があった場合は、早急に眼科を受診して、治療を受けることが大切です。

見え方の変化をご自身でチェック


どんな時に見え方が変わったと感じるでしょうか。新聞やテレビ画面の文字が読みにくい、段差がわからずにつまずいた、道で知り合いに会っても挨拶をしない(気が付かない)など、生活の中のちょっとしたことで、目の変化に気が付くことがあります。また、目の変化が片眼だけの場合、見える方の目が見えない部分を補うため、病気に気が付かないことも少なくありません。

見え方の変化を自分で確かめられる、簡単な方法があります。壁掛けのカレンダーから1.5~2mの所に立ち、手で片眼をふさいで見てみましょう。全部の数字が見えるか、また、縦横の線がゆがんでいないか、調べてみましょう。半年~1年に1回くらいの頻度でチェックを行い、見え方が変化していないか確認してみてください(図3)

最近では、緑内障や加齢黄斑変性などの自己チェックの仕方を紹介しているホームページがあります。いずれも片眼ずつチェックを行い、異常があった場合には、早急に眼科を受診してください。

図3 見え方の変化のチェック(壁掛けカレンダー)

周囲のサポートを受けて


実際にどのように見えているか(見えていないか)は、ご本人にしかわかりません。たとえば、視力が1.0でも、高齢者ではピントを合わせるまでに時間がかかったり、暗く見えたりして、視力ほど見えていないことが多々あります。日常生活でどこか不自由そうな場面はないか、周囲の方が「見えていない」ことに気付くことも大切です。

もし視野が狭くなっていたり、見えない部分があったりする場合には、周囲の方でできる簡単な介助があります。たとえば、歩く際に、見える方は見えない(見えにくい)側に並び、目の代わりをすると安全です。また、階段では見える方が前に立ち、その肩につかまりながら下りると歩きやすくなります。知り合いを見かけた時は、「〇〇さんが前から歩いて来ています」などと、お名前やいらっしゃる方向などを具体的に教えてあげることで、スムーズに挨拶や会話をすることができます。

1年ごとの定期受診を


人は情報の80%以上を目から得ていると言われています。目が悪くなると、行動が制限され、意欲の低下にもつながります。更に、食事療法や運動療法、服薬などの糖尿病の治療にも支障が出ることがあります。

糖尿病がある方は、糖尿病網膜症だけでなく、他の目の病気も起こしやすくなっています。また、加齢による目の変化も早くなる傾向にあります。小さな変化も見逃さずに、定期的に眼科を受診し、目の健康にも注意しましょう。

網膜症の発症や進行のリスクを考慮すると、1型および2型糖尿病患者いずれにおいても、1年ごとの検査を是非習慣としてください2)

◆引用文献

1)Kawasaki R, et al. Diabetologia. 54(9):2288-2294, 2011.

2)日本糖尿病学会 編・著:糖尿病診療ガイドライン2019、南江堂、p129、2019

◆参考文献

公益社団法人日本糖尿病協会 編:糖尿病連携手帳第4版, 2020

日本糖尿病学会 編・著:糖尿病治療の手びき2020(改訂第58版)、南江堂、2020

厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト e-ヘルスネット, 厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト

https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/metabolic/ym-061.html


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