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学びの広場

思春期と糖尿病

No.2

糖尿病を持ちながら思春期を迎える方、思春期に糖尿病と診断された方、またそのご家族に向けて、思春期ならではの悩みやその対応法についてお話しします。

思春期とは

思春期は、小児から大人に移行する過渡期です。個人差もあり明確に年齢で区分されるものではありませんが、世界保健機構(WHO)では10歳から19歳までの時期と定義されています。

糖尿病の有無に関わらず、思春期は男女それぞれの性ホルモンや成長ホルモンの分泌が急激に増えることで、第二次性徴により身体が大きく変化する時期です。ホルモンバランスが変化することで、心理的に不安定になったり、自我の芽生えや親や周囲の人への反発心が生じたりする時期でもあります。本人だけでなく家族や周りの人たちも、身体と心の大きな変化にとまどいを感じる時期でもあります。

思春期の特徴と糖尿病

思春期は、身体的および心理的な変化がありますが、いずれも未成熟です。また、社会経済的にも独立していない時期です。思春期における血糖管理が不良だった場合は、将来的な慢性合併症の発症や進展に繋がるという報告もあり、思春期は糖尿病とともに歩む人の将来を左右しうる重要な時期です。

● ホルモンの変化による影響

思春期には、成長ホルモンや性ホルモンの分泌が増えることでインスリン抵抗性が増加します。インスリンを使用している人では、使用量が以前より増えることが多くなります。同時に活動的な時期であるため、低血糖への対応や不安を抱える人が少なくなく、血糖管理が難しいことが多いです。

● 反発心が高まる時期

思春期は行動範囲や交友関係が広がり、自分の意思で行動する機会が増える時期でもあります。自我が芽生える時期でもあり、治療(疾患)や保護者、社会などに対する反発心が起こることもあります。友人関係や親子関係などが変化する中で、血糖値に対する注意が行き届かなくなり、血糖管理が悪化することも少なくありません。このような状況はストレスや不安を抱えることに繋がることもあります。特に女性の場合、摂食障害や過食などの食行動の異変が見受けられることもある時期です。

● 糖尿病の自己管理をはじめる時期

乳幼児期は、糖尿病の管理は保護者が中心に行っています。少しずつ自己管理が実施できるようになる学童期を経て、思春期は糖尿病の管理が自分自身に移行していく時期になります。

思春期に糖尿病と診断された方は、糖尿病を受け入れることはもちろん、血糖管理、低血糖に対する対処法や、体調に合わせてどのような行動をすべきかなどの自己管理を短期間で習得することになります。

いずれも、保護者のサポートなしで、糖尿病の管理を一人で行うには未熟な時期です。身体の成長に伴い、食事量や運動量の変化に合わせた補食やインスリン量の調整をしなければなりません。また、インスリンの打ち忘れや薬の飲み忘れの心配も発生します。失敗も必要な経験ですが、不安定で経験が少ないため、自己管理などが難しく、管理が悪化しやすいという特徴があります。

● 小児科から内科に移行-トランジッション

小児期に発症した1型糖尿病などの場合、思春期は小児科から内科に移行を検討し、また実行する時期です。主治医やメディカルスタッフが変わり、診療体制も異なる医療機関となる場合は、様々な不安が生じたり、医療者とのコミュニケーションがうまくいかないこともあり、それが糖尿病の管理に影響をおよぼすことがあります。

思春期に糖尿病のある方の悩み

思春期に糖尿病のある方の悩みには、「周囲の人から理解を得ることに苦心している」、「人目を避けて低血糖時の対処やインスリン注射を行っている」、「食事の内容によるインスリン量の調節が面倒」、「食事のストレスによる無茶食いや摂食障害」、「親の目を気にしながら糖尿病管理をしている」などの声が多く聞かれます。

思春期糖尿病の方へのサポート

● 専門家や先輩の支援

糖尿病を持つ方が思春期を乗り越えるためには、心理面や生活面でのサポートが必要です。サポートは、主治医、看護師、栄養士、薬剤師など思春期の糖尿病について熟知した専門チームが望ましいとされています。

心理面でのサポートとして、保護者に相談しにくい悩みを抱えやすい時期であるため、臨床心理士によるカウンセリングも大切です。糖尿病サマーキャンプや患者会に参加して、先輩たちからアドバイスをいただいたり、悩みや不安を話合える場を作ることも有用です。思春期は様々なことに対して自立して行おうとするトライアンドエラーの時期ですが、糖尿病の管理についてもある程度自信が持てるようになるまで、アドバイスや支援を周りに求めることも有用であることを伝えていくことが大切です。

● 学校関係者や友人の支援

学校生活を送るうえで必要なサポートとして、運動前の血糖測定や補食が出来るようにするため、糖尿病の知識や低血糖の予防や対処の必要性などを、友人、部活動の仲間や顧問、教諭などと共有する必要があります。また、小学校高学年から中学生になると、宿泊行事や合宿なども増えてきます。糖尿病のない方と一緒に宿泊行事に参加するためには、学校関係者、クラスメイト、部活動の仲間からのサポートが重要な役割を果たすことになります。

● 家族の支援

家族がしっかりと糖尿病を受け止め、糖尿病の治療や管理ができている場合には、子どもの治療も良好である傾向があります。発症直後から経過に合わせて、心理指導、小児・思春期糖尿病に熟知した専門の多職種で構成された医療チームにより、糖尿病のある本人だけでなく、個々の家族に応じた支援を受けることが勧められます。

思春期は肉体的にも心理的にも様々な葛藤が生じる時期です。特に糖尿病があり思春期を迎える方は、血糖管理の悪化や治療の中断に繋がることもあり、大人になってからの血糖管理や合併症の進行に影響を与えるとても大事な時期です。家族や医療チームの方々のサポートを受け、血糖管理の悪化を招くことなく過ごすことが望まれます。

思春期に糖尿病のある方とそのご家族の支援について気になることがあれば、ぜひ主治医に相談してみてください。一人ひとりにあう方法を見つけて、思春期を乗り切りましょう。

参考資料

  • 日本糖尿病学会・日本小児内分泌学会編・著 小児・思春期糖尿病コンセンサス・ガイドライン2024
  • 日本糖尿病学会編・著:糖尿病診療ガイドライン2024 第18 章小児・思春期における糖尿病
  • 松本宙ほか:小児保健研究76(5). 404-410, 2017

三浦 順之助(みうら  じゅんのすけ)
東京女子医科大学 内科学講座 糖尿病・代謝内科学分野

※ご所属・役職名は監修・取材当時のものです。 

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