肥満を改善させる腸内細菌の発見と糖尿病治療への応用の期待
No.2
腸内環境が様々な疾患と関連があることはよく知られています。糖尿病と腸内細菌との関連も深く、これまでの研究では、乳酸菌などのプロバイオティクス投与による腸内環境の改善が、血糖低下作用に繋がる1)ことが報告されておりました。2025年1月、京都大学から特定の腸内細菌が肥満症改善効果を示す研究結果が新たに報告されました2)。
その腸内細菌はStreptococcus salivarius (S. salivarius)という緑色レンサ球菌という種類の細菌であり、ヒトの腸管に常在しています。S.salivarius の働きで人間が食物から摂取したスクロース(蔗糖:一般的な砂糖)が糖分として体内に吸収されない難消化性菌外多糖体という物質に変換されます。それにより腸管からの糖分吸収を阻害し、さらには腸内細菌環境も改善することで、スクロースの過剰摂取が原因の肥満症を改善することが解明されました。この発見により、今後、糖尿病やそれに伴う肥満症の新たな治療として、同菌の機能を増強して腸内環境を改善させる薬剤の開発が期待されます。
もとより、日本では食生活の欧米化が進んでおり、そのような食生活では糖質、脂質が過剰であり、腸内環境の悪化に繋がることが指摘されています3)。皆様も、糖質と脂質の過剰摂取を避け、食事内容を見直して腸内環境を整える活動(腸活)を実践してみてはいかがでしょうか。
参考
1)Zhou Z. et al.: Front Cell Infect Microbiol. 2022 12:834485. doi:
10.3389/fcimb.2022.834485
2)Shimizu H. et al.: Nat Commun.
16(1):1145-1161, 2025.
3)Hildebrandt MA. et al.:
Gastroenterology. 137(5): 1716–1724, 2009
東京女子医科大学 糖尿病・代謝内科学分野
金箱 勇太郎
※ご所属・役職名は監修・取材当時のものです。
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