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たばことお酒

No.5

たばことお酒

 

たばこやお酒が糖尿病患者さんにもたらす影響と、禁煙のすすめ、お酒との付き合い方について、東京女子医科大学糖尿病センター内科 馬場園 哲也先生にご解説いただきます。

 

日本人の喫煙状況

平成29年度国民健康・栄養調査1)によると、現在習慣的にたばこを吸っている人の割合は17.7%(男性29.4%、女性7.2%)でした。喫煙による健康被害や受動喫煙の危険性が認知されるようになり、この10年間で明らかな減少傾向を示しています(図1)。年代別の喫煙率では、30~40歳代の男性が約40%と最も高く、その後年齢と共に減少しています。

 

日本人の喫煙の状況

 

喫煙と糖尿病発症のリスク

喫煙が健康におよぼす影響については、これまでに多くの研究がなされています。がんが、呼吸器や循環器の病気の引き金となることは良く知られていますが、喫煙と糖尿病の関係も、国内外の研究で明らかになっています。その中で、日本人を対象とした研究データを総合的に評価した報告では、喫煙者は、非喫煙者と比べて、2型糖尿病を発症するリスクが38%高くなり、1日に吸うたばこの本数が増えるほど、発症リスクも高くなることもわかりました2)

喫煙により糖尿病を発症するリスクが高くなるメカニズムは良くわかっていません。しかし、健康成人を対象とした研究で、喫煙により血糖値が上昇することがわかっており、特に、習慣的喫煙者では、血糖値の上昇がより顕著です3)。また、ニコチンによる炎症や酸化ストレス、喫煙に伴う不健康な生活習慣なども、2型糖尿病の発症に関係していると考えられています。

 

糖尿病合併症の発症や進行への影響

動脈硬化は、心筋梗塞や脳梗塞などの命に関わる病気を引き起こす原因となります。糖尿病と喫煙は、いずれも動脈硬化の危険因子です。そのため、糖尿病患者さんがたばこを吸うと、動脈硬化による病気での死亡リスクが益々高まることは容易に想像できると思います。

また喫煙は、細小血管合併症のリスクも高めることがわかっています。喫煙者は非喫煙者に比べて、糖尿病性腎症の指標となる蛋白尿の出現が多いことが報告されており4)、海外では慢性腎臓病になるリスクが高いことが報告されています5)

 

禁煙は糖尿病の予防と治療のひとつ

インスリン治療中の糖尿病患者さんで、インスリン必要量を比較してみると、喫煙者の方が非喫煙者より多く、喫煙本数が増えるにつれてインスリン必要量が増加すると言われています6)。そのため、禁煙することで、インスリン必要量が減少するなどインスリンの効果が変化する可能性があります。

また、2 型糖尿病のマネジメントの仕方として、5つの有用な方法が報告されています7)。禁煙、血圧管理、経口糖尿病薬であるメトホルミンによる治療、脂質管理、そして血糖管理です。この5つを実行することで、心血管病を減らすことが可能ですが、なかでも第一に挙げられているのが禁煙です。

糖尿病を予防する観点では、10年以上の禁煙により、糖尿病の発症リスクが非喫煙者と同程度まで低下すると報告されています(図2)2)

 

喫煙歴と糖尿病発症リスクの関係

糖尿病発症に対するお酒の影響

これまで、お酒は適量範囲内であれば、飲まない人よりも2型糖尿病発症リスクが低いと言われてきました。しかし、最近の研究で、アジア人では適量でも2型糖尿病発症リスクが低下することはなく、むしろ日本人ではやせ型男性の中等量以上の飲酒や1回あたりの量が多い飲酒習慣は糖尿病のリスクが高くなることが示され、2型糖尿病の予防のためにお酒は勧められません。

 

お酒による血糖値の変動

通常、空腹時には肝臓がブドウ糖を作って身体にエネルギーを供給していますが、お酒を飲むと肝臓のこの働きが抑えられるため、血糖値は下がります。食事の量が少なかったり、インスリン療法や薬物療法をしている方では、飲酒後に低血糖をきたす場合があるので注意が必要です。習慣的な飲酒は肥満、脂質異常症に繋がり、血糖コントロールの悪化の原因になるので、適量を心がけるようにしましょう。

 

上手なお酒の付き合い方

お酒は適量であれば、インスリン感受性が高まり、お酒を飲まない人と比べて総死亡、心血管障害や細小血管症の発症が少なかったという報告もあります。糖尿病患者さんにとって適切なお酒の量とは、アルコール量として1日24g 以下とされています。ビールであれば500mL、日本酒であれば1合程度です。お酒の種類による違いは明らかではありませんが、それぞれのお酒に含まれる糖質の量やエネルギーも計算に入れて、上手にお酒と付き合うようにしましょう。ただし、お酒は飲み過ぎや食べ過ぎに繋がり、血糖や脂質のコントロールが乱れることが多くなるため、できるだけ少ない量にすることが大切です。

世界保健機構(WHO)は平成元年に5月31日を「世界禁煙デー」に定め、厚生労働省も世界禁煙デーに始まる1週間を「禁煙週間」とし、禁煙および受動喫煙防止の普及と啓発を進めています。特に糖尿病患者さんにとって、禁煙は最優先して取り組むべき課題です。一方、生活習慣の改善や血糖コントロールに前向きになるためには、ストレス発散も必要でしょう。適量のお酒と上手に付き合うようにしましょう。

 

1)厚生労働省:平成29 年度国民健康・栄養調査結果の概要.
     https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000351576.pdf

2)Akter S.et al.: J Epidemiol 27: 553-561, 2017.

3)Frati AC, et al. Diabetes Care 19: 112-118, 1996.

4)Ikeda Y, et.al.: Diabetes Res Clin Pract 36: 57-61, 1997.

5)De Cosmo S, et al.: Diabetes Care. 29: 2467-2470, 2006.

6) 相良英憲ほか:岡山医学会雑誌119: 83-85, 2007.

7)Erkich DR, et al.: Am Fam Physician 89:257-258, 2014.

 

 

馬場園 哲也(ばばぞの てつや)
東京女子医科大学 糖尿病センター 内科

監修
東京女子医科大学 糖尿病センター 内科
教授・講座主任
馬場園哲也

編集協力
北野滋彦、中神朋子、三浦順之助、柳澤慶香
アイウエオ順

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