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国内インスリンの歴史 第7回 小児糖尿病とサマーキャンプ

日本におけるインスリン製剤や糖尿病治療の歴史について、知られざるエピソードを交えてお届けする全10回の連載シリーズです。第7回は、小児糖尿病と、糖尿病とともに生きる子どものための学びと交流の場「サマーキャンプ」についてご紹介します。

日本における小児糖尿病とインスリン治療の始まり

日本で初めて小児糖尿病が報告されたのは、インスリン発見の20年前にあたる1901年のことで、当時2歳の男の子でした。生後6カ月頃から症状があり食事療法を行いましたが、その生存は2歳11カ月だったと記されています。そして、1924年に日本で初めて、当時6歳11カ月の小児がインスリン治療をうけました。その病状は約20カ月にわたる全身倦怠感、口喝、多飲、多尿が見られ深刻な状態でしたが、インスリン治療により全身的な改善が見られたと報告があります。

日本の小児糖尿病における診療体系の歩み

東京大学医学部附属病院に日本で初めて小児糖尿病の専門外来が開設された1960年はまだ、欧米に比べて糖尿病の症例数が少なく、人々の関心もあまりありませんでした。一方で、当時は集団検査がなかったため、糖尿病であることが分からずに昏睡や感染などで亡くなった子どももいたと考えられています。

1963年には、海外に続き日本で初めて丸山 博 氏によって千葉県館山市で開催されたサマーキャンプに8人の糖尿病のある子どもが参加しました。その後1970年には、児童・生徒における糖尿病検診が行われ始めます。この頃から、治療とともに1型糖尿病のある子どもとその家族における心理的な面についての解析も始まり、それは今でも研究され続けています。

サマーキャンプを実施するにあたり、小児糖尿病の深刻さや急性時の救急医療における対策など多くの問題が検討されました。これらの実績を受けて1974年に小児糖尿病の医療費が公費負担となり、1981年にはインスリン自己注射が保険適用となりました。次いで、1986年には血糖自己測定にも保険適用が認められます。その後1992年に学校で行う検尿項目に尿糖が加わりました。

このように、今では当たり前に行われている小児糖尿病の検査や医療費負担における仕組みの背景には、糖尿病のある子どもをもつ家族や関係者たちの積み重ねてきた多くの研究と報告があったのです。

ともに闘う仲間づくりの場 サマーキャンプ

いわゆる小児糖尿病サマーキャンプとは、糖尿病のある子どもたちが、共同生活をしながら、糖尿病の知識や自己管理の方法を学ぶものですが、その目的は、単に糖尿病の知識や日常管理について学ぶだけではありません。もっと重要なのは、同じ病とともに生きる仲間と、悩みや不安を共有し、生きる意欲を育てていくことにあります。

日本ではいまだに、糖尿病というと、「食生活の乱れ」や「暴飲暴食」といった偏見の目で見られがちです。ただ実際には、幼い頃から自分だけがインスリン注射をし、食事や運動制限をしなければならないといったストレスをかかえています。さらには、年齢を重ねてから、就学、就職、結婚などさまざまなハンディキャップを背負い、悩みを抱えていることが少なくないという現実がそこにはあるのです。

このサマーキャンプは、初めて開催された1963年以降、全国に広まっていきました。実施する団体により異なりますが、キャンプでは主に次にあげるような内容が目的として挙げられます。

【サマーキャンプの目的】

1. 毎年の定期検査や管理入院の代わりとして

2. 健康であることの自信をつけるため

3. 糖尿病の知識と管理能力を習得

4. 心理面を強くする

5. 患者同士、または家族同士の交流で精神面を向上

6. 集団生活について学ぶ

7. ふだんの生活で制限されがちな運動などを楽しむ

8. 社会面でのお互いの向上を図る

ここでは、インスリン製剤の自己注射についても学びます。仲間とおこなう運動やゲーム、共同作業の流れのなかで、朝・昼・夕の食前に血糖値を測ります。これにより、自己管理できるという自信をつけ、将来に対する希望を育むのです。これらは、いくら良い病院に入院したからといって習得できるものではありません。

しかし、課題もあります。運営には、経済的な補助が必要なのです。このサマーキャンプが今日まで発展してきた背景には、いくつもの協会からの支援がありました。

サマーキャンプでは日本各地の地域の特色を生かして、運動会や海水浴など身体を動かすもののほか、山菜摘みやバーベキュー、キャンプファイヤーといったさまざまな催しが行われます。また、親子が一緒に参加できるキャンプでは、患者さんである子ども同士の情報交換に加えて親同士の交流が持てるということも、子どもが健やかに育つ環境を整える上で有用です。

さらに、同じ悩みを乗り越えてきた先輩たちや、医療関係者、ボランティアなど多くの大人と触れ合うことで、人との関わり方を学ぶこともできます。これにより、就学や就職、結婚や出産というような具体的な経験を身近に感じることができ、将来どのような職業につきたいかなどの目標を持つきっかけにもなるでしょう。

このようにサマーキャンプでは、医療面における知識習得のほか、社会生活面における将来への希望と生きる意欲を育むことができるのです。


【参考文献】

・Diabetes Journal編集委員会編 、『日本における糖尿病の歴史』 , 山之内製薬株式会社1994年、 p427, 432

・日本糖尿病学会設立50周年記念誌作成委員会(委員長)清野 裕 『糖尿病学の変遷を見つめて 日本糖尿病学会50年の歴史』 社団法人日本糖尿病学会、2008年、p242-p244

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