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国内インスリンの歴史 第2回 日本のインスリン治療の幕開け

日本におけるインスリンや糖尿病治療の歴史について、知られざるエピソードを交えてお届けする全10回の連載シリーズです。第2回は、日本におけるインスリン治療の始まりや、臨床使用、患者さんの治療に対する変化を、時代背景とともにご紹介します。

日本におけるインスリン研究のはじまり

1921年、カナダにおいて世界初のインスリンが発見されましたが、当時日本でも、東北大学の熊谷岱蔵 (たいぞう) らにより、膵抽出物で研究がなされていました。これが1923年に製品化され、日本におけるインスリン製剤開発の始まりであるとされています。しかし、混入物が多いうえに分解されやすく不安定で、治療に使うことが難しかったのです。

輸入と糖尿病治療の発展

日本初のインスリン製剤の輸入は1923年で、同年に、東京大学医学部の病棟にて、初めて治療に使われたといわれています。それまで、わが国の糖尿病治療は食事療法のみで、極度の糖質制限など過酷なものでした。

症例数は少ないながらも、1925年に出された「日本医事新報」では、インスリン治療による多くの分析結果が記されています。例えば、インスリン注射後の低血糖症状や、患者さんの状態による効果の違い、積極的に使いたい症例などです。さらに、インスリン非依存型糖尿病 (NIDDM) の患者さんが日常生活を送るために、「適切な食事と少量のインスリンを与えるのがよい」とも書かれています。驚くことに、これは現代の治療の考え方とほとんど変わらず、わずか2年ほどの臨床経験で、日本の研究チームはそれを見出していたのです。

患者さんの治療を左右した時代背景

しかし日本は島国であることから、輸入インスリンがとても高価で、使える人は大金持ちか研究に供する患者さんに限られていました。そこで研究を重ね、1934年にはウシやブタなど哺乳動物の膵臓から、インスリンを工業的に抽出することに成功したのです。これが、国産初のインスリン製剤です。

これで多くの患者さんが救えるようになると思われた矢先、1939年に第二次世界大戦が始まり、インスリン製剤による治療は困難を極めます。終戦後は、それまで国内で主流だった、一時的な鯨由来のインスリン製剤に変わり、現代と同じ、ウシ・ブタ由来のインスリン製剤における輸入数が回復しはじめました。さらに時代は流れ、国産製造の技術も発展し、インスリンを使った糖尿病治療が、1980年代には保険適用となり、ようやく一般の人々にも手の届く治療へと向かっていくことになるのです。

そして現代では、糖尿病治療のほとんどが健康保険でまかなわれ、多くの人がインスリン製剤で適切な治療を受けることが可能となっています。

 

日本におけるインスリン治療の歴史は、世界のような「抽出・精製技術の改良」を目指すものではありませんでした。また、島国という立地と、戦争という時代背景にも大きく左右されました。そのような中で見出された糖尿病治療の考え方は、今でも変わらずに臨床で用いられています。1981年以降の日本では、インスリン製剤による標準的な治療を受けることが可能になりましたが、その前には、このような幕開けのストーリーがあったのです。


【参考文献】

・Diabetes Journal編集委員会 編、『日本における糖尿病の歴史』山之内製薬株式会社1994年、 p274, 277,278,281,283

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