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糖尿病とともに生きる-連載ブログ第7回:「ティモールタイム」

こんにちは。1型糖尿病とともに生きる日々を綴る当ブログをご覧いただきありがとうございます。

 

今回は私のイライラの原因をいくつかご紹介いたします。

- 交通渋滞

- 郵便局の行列

- 銀行の手数料

- 携帯の通信状態の乱れ

- フライトの遅延

- 短いフライトでシートを後ろに倒す人たち

- 燃料費

- ガタガタうるさい洗濯機の音

- 首相の交代

- 血糖値が不安定な日

 

これらに出くわすと順調な一日でも、台無しになってしまいます。感情的になるとなおさらです。

 

私がアスリートとして懸命に学び、そして私が若いアスリートたちに指導していることは、「自分が抱えている問題よりも、自分自身が強くなること」、些細な問題や批判にふりまわされず、集中力を絶やさないことが大切だと思います。

 

私は9月に、このような心配事やイライラを大局的な視点から見つめるような体験をしました。

ティモール・レステという国を旅しました。東ティモールとも呼ばれるティモール・レステは、国連によって2002年に初めて独立国と認められた世界で最も新しい国のひとつであり、オーストラリアのダーウィンとインドネシアの一部であるティモール島のインドネシア部分との間に位置しています。

ポルトガル政府が占領をやめた1975年までは、ポルトガルの植民地でした。ティモール・レステの人たちは自分たちをインドネシア人だと思っていませんが、その後間もなくしてインドネシア政府は島の資源が豊富な部分を引き継ぎ、ティモール・レステの住民たちを武力で支配しました。国民の98%がローマカトリック教徒のティモール・レステは、世界で最も信仰深い国のひとつであり、イスラム教徒が圧倒的に多いインドネシアの国民と対立してきました。1990年代後半には地域住民とインドネシア政府との間の緊張が頂点に達し、東ティモールの住民はインドネシアから独立するかどうかの投票を行い、独立賛成の声が広がりました。

インドネシアはこの反逆を軽視せず、焦土作戦で撤退しながら小さい地域のほぼ全てのインフラを破壊し、何千もの人々を殺害しました。結果、インドネシアの撤退とその後に生じた東ティモール内の多数の反政府組織間の緊張によって200,000人もの人々が命を落としました。その後、オーストラリア軍事使節を中心とする国連が、平和と新国家の確立を目指して支配権を握りました。

「ツール・ド・ティモール」 マウンテンバイクレースへの参戦

そして私は、破滅的戦争から20年近く経った今、ティモール・レステを訪れました。この国で最大のスポーツイベントである「ツール・ド・ティモール」マウンテンバイクレースに参戦するためです。2009年から行われているこのレースは、同国最初の大統領ジョゼ・ラモス=ホルタが同国の平和と友好を促進するために始めたものです。今年で10周年を迎え、多くの人々がこのレースが小さくも壮観な国の平和維持に大きく貢献していると考えています。私たちはこの国にそびえたつ巨大な山岳地帯を5日間かけてレースしました。3,000mに達する山々ですから、レースがいかに厳しいものかはご想像いただけると思います。

今こそ前向きな開発軌道に乗っていますが、何年にもわたって混乱が続いたティモール・レステは世界で最も貧しい国のひとつになっています。人口の60%が毎日1.75米ドル未満で生活しています。10,000ドル近い自転車に乗っている比較的裕福なオーストラリア人がこの国の生活状況を見ると強い衝撃を受けるでしょう。

 

初めての1型糖尿病選手の参戦 ~インスリン保冷手段との闘い~

1型糖尿病と生きる私は、レースにはもちろんインスリンと血糖測定器を持って行かけなければなりませんでした。

ティモール・レステは、世界で最も暑い国のひとつで、世界で最も過酷なバイクレースのひとつです。そのため、私は1型糖尿病のことや特別に配慮が必要なことについて、レース協会へ知らせる必要がありました。

ツール・ド・ティモールではこれまで1型糖尿病の選手が参戦したことはなく、レースドクターたちの一番の懸念はどうやってインスリンを保冷するかでした。レースコースとキャンプ場の温度はかつて何時間にもわたって摂氏50度を超えたことがあるような場所である上、冷蔵設備などはほとんどないこのティモール・レステでは、冷蔵庫を用意するにもとてもお金がかかるのです。この問題を自分で何とかするほかなかった私は、数日間冷温を保つことができる断熱カプセルを用意しました。さらに、レース中にこのカプセルをクーラーボックスに入れてくれるようレースドクターたちと交渉しました。結果、私は生命維持に必要なインスリンを切らすことなく、インスリンを高熱でダメにすることなくレースに参加することができました。

しかし現実は、ティモール・レステで1型糖尿病と生きるということは、非常に難しく、控えめに言っても「不可能に近い」ということが分かりました。インターネットで探しましたがティモール・レステでは1型糖尿病に関する情報が何も見つかりませんでした。人口の大部分がインフラや輸送機関から隔絶された小さなこの国で、1型糖尿病の診断の機会を得るのは極めて難しいと思います。これはティモール・レステだけの問題ではなく、中央アフリカなど、世界の他の地域でも私が見聞きしてきた問題です。きっと誰かとても頭のいい人がこの問題に取り組んでいると思いますが、私はこのレースで「耐熱性インスリン」の研究はどこまで進んでいるのか?と考えさせられました。これが実現すれば発展途上国にいる何百万もの1型糖尿病のある方の生活は根本から変わるでしょう。現に私たちは素晴らしいクローズドループシステムやCGM(血糖持続測定器)の誕生によって、めまぐるしい技術の発展を目の当たりにしました。そしてこの技術によりたくさんの人々の生活が向上しています。私は、糖尿病治療の研究開発に取り組む人たちが耐熱性インスリンにも目を向けてくれれば…と願っています。

 

ティモール・レステの人々は明らかに生活上の問題を抱えているにも関わらず、彼らが本当に喜びや幸せに満ちた表情をしていていることに、心を打たれました。

 

レースには地元のアスリートが70人余り参加していましたが、彼らが乗っていた自転車は政府から支給された初歩的な自転車でした。60人余りの欧米人のアスリートたちは毎朝目覚めるたびにレースの苛酷さを嘆き、愚痴をこぼしていましたが、ティモールのライダーたちは毎朝目覚めると歌ったり笑ったりしていたのです。

私たちが村を通ると、地元の人たちは素敵な歌を歌い、満面の笑みを浮かべ、通り過ぎる私たちに向けて拍手して応援してくれました。どのお店も温かい笑顔と感謝の気持ちで歓迎してくれました。ティモール・レステはいつも幸せ、音楽、笑い声、車のクラクション、話し声が生み出す音で溢れています。ここには、シドニーハーバーブリッジの渋滞や洗濯機や銀行口座のことを気に病むような人はいません。

彼らにとって最も大切なものはどうやら「自由」であり、彼らは今それを手にし、バスに、壁に、車に、国の至るところに「Liberado(解放)」と書かれています。

 

私が先進国で体験するイライラを抑えるには、物の見方を変えることが必要だと気が付きました。

世界には戦争で家族全員を失い、冷蔵庫も持つことが出来ない人々がいる中で、果たして高速道路で30分の渋滞にイライラする必要が本当にあるのでしょうか?

答えは「ノー」です。

私は自宅に予備のものも含めてインスリンを保管し利用することができるのです。実際、私は地球上で最もラッキーな人のひとりであり、生き生きと自由でいられるこの幸せを些細なイライラで台無しにする必要はないのです!

ジャスティン モリス氏 略歴:

10歳で1型糖尿病と診断されたジャスティンさんは、人生の夢と目標を見失いかけていましたが、糖尿病対策を目的に自転車競技を始め、プロのサイクリストの道へ進むきっかけにもなりました。ロードレースのプロサイクリストとして5年間を過ごし、競技と糖尿病のコントロールを両立させながら世界の5大陸を転戦しました。その間の競技生活から多くのことを学び、競技の中でも外でも困難に対処していく経験と知恵が身に付いたと語っています。

その後、プロ選手を引退してオーストラリアのマッコーリー大学を2015年に卒業し、心理学と教育学の学位を取得しました。大学在学中には、学業だけでなくスポーツ競技でも優れた成績を収めた学生に贈られる「ブルース・アワード」を授与されました。現在もチームSubaru-marathonMTB.comに所属してマウンテンバイクのマルチデー自転車レースに出場しており、変わらぬ健脚ぶりを発揮しています。クロコダイル・トロフィー、シンプソン・デザート・バイク・チャレンジ、パイオニア・イン・ニュージーランド、モンゴル・バイク・チャレンジの各レースで表彰台入賞を果たしています。

2011年からは、自転車競技経験をもとにした情報発信を開始しました。希望と力を与え、逆境を克服するメッセージを世界中の人々に発信し続けています。

連絡先:

Twitter: @JustinMorrisTT1
Instagram: @justinmorrismdog
LinkedIn: https://www.linkedin.com/in/justin-morris-3a71b4a7/www.mindmatterscoach.com

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