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ペンといっしょに

糖尿病と脱水

No.15

脱水が起こるのは、夏の暑い時や熱中症の時だけではありません。高血糖の状態が続くと、尿の量や回数が増えたり、のどが渇いたりすることがあります。糖尿病の方に起こる脱水の症状やそのメカニズムについて解説します。

糖尿病の症状ー多尿、口湯、多飲と水分

糖尿病でインスリンが十分に分泌されなかったり、あるいはインスリンが十分に働かないと、高血糖、つまり血液中のブドウ糖の濃度がとても高くなります。ブドウ糖は体に必要な栄養分であるため、通常は尿といっしょに排出されず、血液中に戻されます。しかし、糖尿病で血液中のブドウ糖が多くなり過ぎると、腎臓はブドウ糖を多量の水分と一緒に尿として排出するようになり、尿の量や回数が増えます。これが多尿です。
尿の量を増やすためには、体の中の水分を使います。高血糖状態を改善するために、体の中の水分が多量に使われてしまうと、脱水状態になります。脱水になると、のどの渇き(口渇)を感じ、それを改善するために多量に水分を摂ります。これが多飲です。糖尿病に特徴的な、多尿、口渇、多飲の症状は、高血糖による脱水症状です。

危険な脱水症状

高血糖とそれによる脱水症状が続くと、次に説明する糖尿病ケトアシドーシスや高血糖高浸透圧症候群などの合併症が起こり、意識がもうろうとすることがあります。重症になると昏睡状態で倒れることもありますので注意が必要です。

糖尿病ケトアシドーシス

  • 主にインスリン分泌が廃絶した1型糖尿病の方に見られる、糖尿病発症時やインスリンを中断した時、感染症などにより体調を崩した時に、血糖値が異常に高くなって起こります。
  • 2型糖尿病の方では、清涼飲料水を多量に飲み続けた場合にも起こることがあります(ペットボトル症候群または清涼飲料水ケトーシス)。
  • インスリンの著しい不足などにより、ブドウ糖が利用できなくなり高血糖と脱水が持続します。
  • 激しい口渇や多飲、多尿の他に、倦怠感や悪心・嘔吐などの症状が現れることがあります。
  • ブドウ糖の代わりのエネルギーとして、脂肪が使われるため、脂肪の分解が高まります。脂肪は最後に「ケトン体」という物質になります。このケトン体の量が著しく増え、血液が酸性に傾き、ケトアシドーシスと呼ばれる状態になります。
  • 点滴で水分を補給し、脱水症状を改善し、インスリンで血糖値を下げる治療を行います。

 

高血糖高浸透圧症候群

  • 主に2型糖尿病の高齢の方に多く見られます。感染症、脳卒中、副腎皮質ステロイドや利尿薬、高カロリー輸液などが原因となります。
  • 高齢者では、体内の水分量が成人より少なく、水分を摂る量も少ないことが多いため、脱水状態になりやすい傾向があります。
  • 倦怠感や頭痛、悪心・嘔吐、けいれん、ふるえなどの症状が現れることがあります。
  • 点滴で水分を補給し、脱水症状を改善し、必要に応じてインスリンで血糖値を下げる治療を行います。

経口血糖降下薬による脱水

最近使用可能となった、sodium glucose cotransporter(ナトリウム・グルコース共役輸送体, SGLT)2阻害薬は、尿糖の排泄を増やすことによって血糖値を下げる、新しい糖尿病薬です。この薬を服用すると多尿となり、脱水を起こすおそれがあるため、細かな水分補給が必要です。

脱水を予防するために

  • 十分な水分摂取を心がけましょう。
  • 高血糖の持続が脱水を招きます。良好な血糖管理を心がけましょう。
  • インスリンで治療中の方は、ご自分の判断でインスリンを中止しないようにして下さい。
  • 風邪などの感染症、胃腸の病気、怪我、ストレスを受けた時などには、血糖管理が乱れて高血糖が持続し、脱水が起こりやすいので注意しましょう。

 

東京女子医科大学 糖尿病センター
馬場園 哲也

次回は「ワンランク上の注射テクニック~握力がなくなったら~」をお届けします。

監修 内潟 安子 [創刊によせて ]
東京女子医科大学
東医療センター 病院長

編集協力
岩﨑 直子、尾形 真規子、北野 滋彦、中神 朋子、馬場園 哲也、廣瀬 晶、福嶋 はるみ、三浦 順之助、柳澤 慶香
(東京女子医科大学糖尿病センター)
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