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学びの窓

運動量の目安

No.6

糖尿病の治療において運動療法は食事療法と薬物療法に並ぶ大切な治療法です。適切な運動を日々の生活に取り入れることで、骨格筋が糖を取り込みやすくなり、血糖管理がしやすくなります。今回は運動療法の基本について、クイズ形式で解説します。あらためて、ご自身の生活習慣を振り返ってみてください。

運動療法は、1週間に何回行うのが良いですか?

① 1 回
② 3 回以上
③ 毎日必ず

 

答え②
運動療法は毎日続けるのが理想ですが、必ずしも毎日でなくてもかまいません。歩行、ジョギング、水泳など、全身の筋肉を動かす中等度の有酸素運動を少なくとも週3回以上行いましょう。運動しない日が2日以上続かないようにしてください。1 回の運動時間は20~60分で、週に150分以上行いましょう。例えば歩行にすると、1 日あたり今より2,000歩ずつ歩数を多くすることで達成できます。
スクワット、ダンベル、腕立て伏せ、腹筋など筋肉に負荷をかけるレジスタンス運動は週に2~3回、筋肉を休める日を考慮して連日にならないように実施します。同じ日に両方の運動を組み合わせて行うことをお勧めします。

強度が中等度の有酸素運動を行う時、1 分間の心拍数はどのくらいになるでしょうか?

① 60~80拍
② 80~100拍
③ 100~120拍

 

答え②または③
運動の強度が上がると心拍数も上がるため、心拍数が運動強度の目安となります。中等度の運動とは最大心拍数の50~60%と言われていますが、最大心拍数は簡易的に「220- 年齢」で推定できます。例えば50歳であれば、最大心拍数は170拍で、その50~60%とすると運動時の適正心拍数は75~102拍となります。一般的には50歳未満で1 分間に100~120拍、50歳以降は1分間に100拍以内を目安としてください。体感にすると「楽である」~「やや楽である」程度で、慣れてきたら「ややきつい」が目安になります。

運動療法は、いつ行うのが良いですか?

① 食前
② 食後
③ いつでも良い

 

答え②
運動には血液中のブドウ糖や脂肪酸を消費し、速やかに血糖値を低下させる急性効果があります。食後は血糖値が上昇しやすいため、食後1~2時間で運動するのが最も効果的です。またインスリンやスルホニル尿素薬などの薬剤を使用している方は、食前や空腹時に運動すると低血糖を起こす可能性があるので注意が必要です。運動が血糖管理を改善するメカニズムは急性効果以外にも色々あります。食後に時間が取れない場合でも、ご自分の生活スタイルに合わせてコツコツと運動するよう心がけることが大切です。

運動療法を行う時間がありません。短時間では効果がないですか?

① 効果がない
② 効果はある

 

答え②
身体を動かすように心がけることは肥満の予防や予後の改善に有効です。日常生活において座っている時間が長いほど死亡率が高く、心血管疾患のリスクが増加するとのデータがあります。デスクワークの方は、30分おきに3分間の軽い有酸素運動を行うと食後高血糖が改善します。忙しい毎日の中でも、ご自分のできることから一歩ずつ生活習慣を変えていきましょう。

インスリン療法をしている場合、運動前後のインスリン量は調節する必要がありますか?

① いつも通りで良い
② 調節することがある

 

答え②
インスリン療法をしている糖尿病のある方では、運動のタイミングや強度に合わせてインスリンの減量や補食が必要な場合があります。運動する前の超速効型インスリンの減量、さらに運動療法の効果は約48時間持続するため、基礎インスリンの減量が必要な場合もあります。運動量やインスリンの量は一人ひとり異なります。自己血糖測定や持続糖濃度測定のデータを用いながら、具体的な調整法を主治医に相談しましょう。

レジスタンス運動は、施設にあるマシンやダンベルなどの器具や道具が必要ですか?

① 必要ない
② 必要である

答え①
必ずしも道具は必要ではありません。自分の体重が負荷となるスクワットや水を入れたペットボトルをダンベル代わりに活用できます。実際には上半身と下半身の筋肉運動を含んだ8~10種類のレジスタンス運動を行います。最初は10~15回繰り返す程度で1セットから始め、徐々に負荷とセット数も増やします。室内でもできて、筋肉量を増加し増強できるため、高齢化社会にとって重要な運動様式と考えらえています。

運動を制限するのはどのような場合ですか?

① 非常に血糖値が高い時
② 尿たんぱくが多い時
③ 立ちくらみがひどい時
④ ①から③すべて

 

答え④
運動療法を開始する前にはメディカルチェックが必要です。例えば、血糖管理が極端にうまくいかない時(空腹時血糖値250mg/dL 以上、尿ケトン体中等度以上陽性)、糖尿病網膜症で新生血管がみられる時、腎機能が著明に低下している時、高度の自律神経障害がある場合、心疾患や心肺機能に障害がある時、足壊疽がある時、骨や関節に障害がある場合は注意が必要です。運動量や運動の種類について、主治医に相談してみましょう。

膝や腰の痛みがある場合、どのような対処をすればよいですか?

① 痛みが取れるまでずっと座っている。
② 無理のない程度に日常生活での活動を増やす。
③ 痛み止めを使って運動する。

 

答え②
膝や腰の痛みがある時は、無理に動かしてはいけません。まずは主治医や整形外科医に相談してみてください。状況によっては、ストレッチや関節を強化するレジスタンス運動が勧められることもあります。痛みがあり運動ができないと寝てばかりではいけません。座ってできるラジオ体操にチャレンジしたり、郵便受けを見に行く、窓を開けて空気の入れ替えをするなど、日常のちょっとしたことで無理なく生活活動を増やすようにしましょう。

運動は2型糖尿病の予防にも効果がありますか?

① 予防効果がある
② 予防効果はない

 

答え①
有酸素運動もレジスタンス運動も、2型糖尿病の発症予防に有効で、特に組み合わせて実施するとさらに予防効果が高くなります。また、座っている時間を減らし、日常の活動量を増やすだけでも2型糖尿病の予防になるので、積極的に体を動かすようにしましょう。

運動療法を上手に続けていますか?

有酸素運動とレジスタンス運動を併用して行うと、血糖値の改善や合併症の予防に繋がります。自分のできる運動、好きな運動を一つでも多く見つけて、長く続けていきましょう。

 

参考:
日本糖尿病学会編・著:糖尿病診療ガイドライン2019 南江堂
日本糖尿病学会編・著:糖尿病治療ガイド2020-2021 文光堂

小林 浩子(こばやし ひろこ)
東京女子医科大学 糖尿病センター 内科

監修 [ごあいさつ]
東京女子医科大学内科学講座糖尿病・代謝内科学
教授・基幹分野長
馬場園哲也

編集協力
大屋純子、小林浩子、中神朋子、花井豪、三浦順之助
アイウエオ順

JP23DI00227