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学びの窓

糖尿病性腎症と検査値

No.4

糖尿病の細小血管合併症のひとつである糖尿病性腎症に対する、診断や病状の指標となる検査項目について、東京女子医科大学糖尿病センター 内科 花井 豪先生にご解説いただきます。

糖尿病性腎症とは

糖尿病性腎症は、糖尿病性網膜症、糖尿病性神経障害とともに、糖尿病の細小血管合併症と呼ばれます。いずれも高血糖によって発症します。糖尿病性腎症は、糖尿病を発症してから長い期間をかけ自覚症状がないまま進行します。悪化すると腎臓が働かなくなる腎不全となり、透析が必要になることもあります。糖尿病性腎症は1998年以降新たに血液透析を始める原因の第1位となっています1)

腎臓の働き

腎臓は腎臓に送られてきた血液から尿を作って、水分や電解質の調節、pHの維持、老廃物の排出などをしています。腎臓に送られた血液は、毛細血管が糸玉状に密集した糸球体でろ過され原尿となります。正常な糸球体では、身体に必要な血球やたんぱく質などはろ過されずに、体に戻されます。糖やアミノ酸、電解質などは原尿中にろ過されてしまいますが、尿細管で再吸収され、体に不要な老廃物が尿中に排泄されます(図1)。その他、腎臓にはホルモンの産生や調節を担い、血圧の維持や赤血球の産生、健康な骨を維持する働きなどがあります。

糖尿病性腎症の発症メカニズム

糖尿病を発症し、高血糖の状態が続くと、糸球体を形作る毛細血管が傷害を受けます。そのため、糸球体の基底膜が厚くなり、そこから蛋白質であるアルブミンが微量に漏れるようになります。しかし、この段階ではほとんど自覚症状がないため、放置しておくと、糸球体の構造が壊れ、多量の蛋白質が漏れるようになり、その後腎機能が比較的急速に低下し、血液が十分にろ過されず、老廃物が身体に溜まるようになり腎不全の状態になります。

腎症の指標となる検査値

腎機能の指標となる検査には、尿検査や血液検査などがあります。

<尿検査>

• 蛋白尿、血尿

尿に蛋白質や血液が混ざっていないかなどを調べます。

• 尿中アルブミン排泄量

糸球体の毛細血管の傷害が進行すると、蛋白質であるアルブミンが尿中に認められるようになります。尿中アルブミン排泄量が30~299mg/g Crの場合は微量アルブミン尿と呼ばれ、糸球体や尿細管の傷害が進んでいることが考えられます。傷害が更に進み、尿中アルブミン排泄量が300mg/g Cr を超えると顕性アルブミン尿と呼ばれます。

<血液検査>

• 血中尿素窒素(BUN)

血液中の尿素に含まれる窒素の量を測定します。尿素は蛋白質や組織が分解された物の最終産物です。腎機能が低下するとBUN値が上昇しますが、たんぱく質の多い食事や体内の水分量(脱水だとBUNは上昇します) などにも影響を受けます。

• 糸球体ろ過量(GFR)、

推算糸球体ろ過量(eGFR)

糸球体のろ過量を正確に調べるためには、24 時間の畜尿や採血が必要です。しかし、時間がかかり、患者さんの負担も多い検査のため、1回の血液検査でわかる血液中のクレアチニン濃度を年齢や性別で換算した推算糸球体ろ過量(eGFR) を用いて糸球体のろ過量を評価しています。eGFR が30mL/ 分/1.73 m2 未満になると腎不全と診断されます。

• 血清シスタシンC

シスタシンCはすべての細胞から作られる蛋白質で、腎機能が正常の場合、糸球体でろ過された後、尿細管で再び再吸収されて腎臓で分解されます。その量は年齢、筋肉量、食事、運動の影響を受けにくく、腎臓のろ過機能の良い指標と考えられています。筋肉量の少ない高齢者ややせ型の方では、血清クレアチニン値が低めに出るため、血清シスタシンC による腎機能の評価が勧められています。

糖尿病性腎症の病期

糖尿病性腎症の病期は、尿中アルブミン排泄量と糸球体ろ過量などを考慮し、第1期(腎症前期)、第2期(早期腎症期)、第3期(顕性腎症期)、第4期(腎不全期)、第5期(透析療法期)に分けられます。

典型的な糖尿病性腎症の自然経過は、糖尿病発症から5~10年を経過する頃から、尿中に微量アルブミンを認めるようになり(微量アルブミン尿期)、10~15年後には顕性アルブミン尿期となり、その後腎機能が低下し、腎不全~透析療法期に移行します(図2)。

糖尿病のある方の腎臓を守るために

まずはご自身の腎臓の状態を把握するために、尿中アルブミン排泄量とeGFRから腎症の病期を知ることが大切です。これらの検査値は年を追うごとに変化していくので、定期的にそれらを測定し、その都度病期を把握する必要があります。また、尿中アルブミン排泄量は治療により改善し得る検査ですので、治療の評価をするためにも重要です。腎臓は高血糖だけでなく、高血圧・脂質異常症・肥満・喫煙などさまざまな因子の影響を受けます。近年の治療の進歩により、これらを集約的に管理することで糖尿病性腎症の発症・進展予防のみならず、腎症の寛解・退縮も報告されるようになってきています2) 3)

 

1)一般社団法人日本透析医学会 統計調査委員会:わが国の慢性透析療法の現況 第3章2017年透析導入患者の動態

2)Gæde P, et al. N Engl J Med 2003;348:383‒393

3)Ueki K, et al. Lancet Diabetes Endocrinol 2017;5:951‒964.

花井 豪(はない こう)
東京女子医科大学 糖尿病センター 内科

監修 [ごあいさつ]
東京女子医科大学内科学講座糖尿病・代謝内科学
教授・基幹分野長
馬場園哲也

編集協力
大屋純子、小林浩子、中神朋子、花井豪、三浦順之助
アイウエオ順

JP23DI00227