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学びの窓

No.2

糖代謝異常のある妊婦さんの、産後のフォローアップを考えます。日常生活の注意点やお子さんの将来など、母児の健康管理について、東京女子医科大学糖尿病センター 内科 柳澤 慶香先生にご解説いただきます。

糖代謝異常合併妊娠とは

妊娠中の糖尿病には、妊娠する前から糖尿病を診断されていた「糖尿病合併妊娠」と、妊娠中に診断された「妊娠糖尿病」、「妊娠中の明らかな糖尿病」があります。これらの糖代謝異常合併妊娠は、血糖管理が不適切であると母児に様々な合併症が起こるため、妊娠中は食事療法やインスリン療法を行って、厳格な血糖管理を行います*。

では、分娩後はどうでしょう? もう、血糖のことは気にしなくていいのでしょうか? 糖尿病があっても、授乳はできるのでしょうか?

糖尿病合併妊娠

出産後は、自分自身の血糖管理と育児の両立が課題です。

母乳栄養は栄養面に優れ、良好な母児関係の確立のためにも有用です。もちろん、お母さんに糖尿病があっても授乳はできます。授乳中の糖尿病管理に薬が必要な場合は、インスリン療法を継続します。母乳は1cc あたり約0.7kcal あり、お母さんに必要なカロリーに母乳分のカロリーを追加して食事を摂ります。それでも、授乳後に血糖値が下がってしまうことがあります。たくさん母乳が出て血糖値が下がりやすい人は、補食をしてから授乳を行ってください。授乳前の補食としては、炭水化物やたんぱく質を含むもの、授乳中に低血糖になった場合は、すぐに血糖値が上昇しやすいブドウ糖や糖分の入ったジュースなどがよいでしょう。また、夜間も授乳をする際は、睡眠前にたんぱく質を含む乳製品などを摂取することをお勧めします。補食を行っても血糖値が下がってしまう場合はインスリンの減量も検討してください。

出産後には子供が成人するまで20年ほどの子育てが続きます。出産後も良好な血糖管理を行い、合併症を予防し、子育てを全うすることが大切です。妊娠中、網膜症が悪化してしまった人もいるでしょう。出産後は妊娠中にできなかった蛍光眼底造影が可能です。眼科の先生と相談し、検査・治療を継続しましょう。また、腎症が悪化し治療が必要な場合は、授乳を考慮し薬を選択する必要があります。

そして、もう一人お子さんを考えている方は、血糖・合併症の管理を行った上で、次の妊娠も計画妊娠を行ってください。糖尿病のある妊婦さんから生まれたお子さんは将来、肥満、糖尿病などを起こしやすいことが知られています。自分自身だけでなく、お子さんも一緒に食事や運動などの良好な生活習慣を続け、お子さんの将来の糖尿病も予防しましょう。

妊娠糖尿病、妊娠中の明らかな糖尿病

妊娠糖尿病と妊娠中の明らかな糖尿病のある方は、分娩後6 ~ 12 週くらい経って妊娠の影響がなくなってから、血糖値が正常に戻っているかどうか確認するため、糖負荷試験を行います(図)。「妊娠糖尿病」より重症な「妊娠中の明らかな糖尿病」の方の中には、妊娠前に見逃されていた糖尿病の方もいます。必ず、分娩後も血糖検査を受けてください。

妊娠中に妊娠糖尿病を発症した方は将来、本当の糖尿病に移行する確率が高いことが知られています。たとえ分娩後の糖負荷試験の結果が正常であったとしても、その後も定期的に血糖検査をすることをお勧めします。また、将来の糖尿病発症の予防に、授乳が有効であったとの報告もあります。

妊娠糖尿病を発症した方は、次の妊娠でも妊娠糖尿病を再発することが多いです。次の妊娠を考えている人は、妊娠前に糖尿病を発症していないか確認するため、糖負荷試験を行うこと、また、妊娠をした場合は、産科の先生に前回の妊娠で妊娠糖尿病を診断されたことを伝え、必ず血糖検査をしてもらってください。

生活習慣の改善や適正な体重維持をすることで、将来の糖尿病への移行や妊娠糖尿病の再発を予防していきましょう。

*「糖代謝異常合併妊娠」については、柳澤慶香先生によるノボケア circle12号糖尿病アカデミー「糖尿病と妊娠」をご参照ください。
http: //www.club-dm.jp/novocare_circle/academy/academy12.html

柳澤慶香(やなぎさわ けいこ)
東京女子医科大学 糖尿病センター 内科

監修
東京女子医科大学 糖尿病センター 内科
教授・講座主任
馬場園哲也

編集協力
北野滋彦、中神朋子、三浦順之助、柳澤慶香
アイウエオ順

JP23DI00227