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学びの窓

糖尿病とメンタルヘルス

No.13

糖尿病と共に生きることに心理的なストレスを感じている方がいます。メンタル面で良好な状態が維持できないと、生活の質(QOL)が低下し、体調にも悪影響をおよぼします。今回は、糖尿病とメンタルヘルスの関係について考えたいと思います。

糖尿病によるストレスについて

英国のアンケート調査によると、糖尿病を持っている人の3 人に2 人が 「糖尿病のために気持ちの落ち込みを感じることがある」と回答し、3人に1人が「糖尿病のために生活スタイルを変えなければならず、家族にも迷惑をかけている」と感じています。

このように糖尿病の治療、すなわち食事や運動療法のために、今まで慣れ親しんだ毎日の生活を変えていくことはストレスの原因になる可能性があります。インスリン注射など薬物療法を行うことも、大きな心理的負担になる場合があります。また、定期的な通院で、血糖値やHbA1c の値を、まるで成績表のように渡され、それをよい、悪いと評価されること、さらには、合併症への不安もストレスの原因となる場合があります。

社会にある糖尿病に対する誤った理解も、ストレスの一因になります。糖尿病は様々な要因により発症しますが、世間一般からは一律に「生活習慣がよくないと、かかる病気」とみなされる風潮があります。それにより糖尿病を持っている方は能力や性格を批判されたように感じ、自己評価や自尊心が低下することがあります。さらには、周囲に糖尿病を持っていることを隠したいがために、友人に誘われても食事や旅行に行けなくなるなど、社会活動を制限してしまう方もいます。

糖尿病とこころの病気

ストレスは、様々なこころの病気の原因になります。特に糖尿病とうつ病との関係はよく知られています。うつ病は気分の落ち込みや興味・関心の低下、睡眠障害などの症状を呈し、休職や自殺などのリスクを高める重大な疾患です。糖尿病におけるうつ病の頻度は9~20%と言われ、その頻度は糖尿病を持たない人のおよそ2倍と言われています。また、うつ病は糖尿病合併症の発症リスクを高めること、2型糖尿病を持つ方の死亡リスクを1.5倍上昇させるという報告もあります。うつ病になると食事、運動、薬物療法などの治療行動ができなくなります。また過食や飲酒が増える場合は、血糖のマネジメントが難しくなります。そのためうつ病を早期に発見し適切な治療を受けることが重要です。うつ病には薬物療法など有効な治療法があります。気になる症状がある場合は、担当医師にご相談ください。

孤独と糖尿病

コロナ禍では人との関わりを減らすことが余儀なくされ、孤独であると感じる人が増えています。このような社会環境の変化もあり、孤独が身体におよぼす影響について、研究結果が報告されました。20年間の追跡調査によると、孤独であると強く感じる人は孤独を感じていない人に比べ、2型糖尿病を発症するリスクが2.19倍高いそうです。正確なメカニズムは解明されていませんが、孤独を感じると、ストレスホルモンであるコルチゾールなどが体内で分泌され、インスリン抵抗性が惹起されること、また脳による摂食行動の調節がうまくいかなくなり、炭水化物摂取量が増えることで血糖値が上昇しやすくなります。

糖尿病によるストレスに対処するために

●一人で抱え込まない
筆者が行ったアンケート調査では、「私の周りに糖尿病に対する気持ちを話せる家族、友人、医療関係者がいる」と回答した人は糖尿病の負担、うつ症状、不安症状が少ないという結果でした。また患者会に1回でも参加したことのある人は、糖尿病の負担が少ないことも分かりました。もしも周囲から糖尿病についての理解が得られずストレスを感じていたら、自分だけでなんとかしようとせずに、医療関係者や信頼できる人に相談してください。また、機会があれば患者会に参加してみましょう。

あるがままの自分を受け容れる
本来はこうあるべきだという理想の状況や、他人との比較で自分の現状を考えた場合、自分の状況がそれらにおよばないと感じるとストレスが生じます。ストレス対処法として大切なのは、あるがままの自分の尊さを大切にし、その上で現状の 『今、できていることやできること』 に目を向けることです。

リラックス、リフレッシュできる時間を作る
日常生活の中にリラックス、リフレッシュできる自分の時間を持つことも大切です。ゆっくりとした呼吸を取り入れたヨガや瞑想、好きなことをすること、また‘今、ここで起きていることを、ありのままに感じて、受け止める’マインドフルネスはストレスの対処法として有効と考えられます。

このように糖尿病を持っている人は、メンタル面での不調を経験することが多いことがわかってきました。糖尿病の治療の一部として、メンタルヘルスケアを取り入れることが大切です。

参考資料
The future of diabetes( 英国糖尿病学会2017年11月14日)
https://www.diabetes.org.uk/get_involved/campaigning/the-future-of-diabetes

Kato A, et.al.: BMJ Open Diabetes Res Care. 4(1):e000156, 2016

Henriksen RE, et.al.: Diabetologia. 2022 Sep 28. doi:10.1007/s00125-022-05791-6

西村 勝治ら:精神科臨床Legato 6(3):138-143, 2020

小林 浩子(こばやし ひろこ)
東京女子医科大学糖尿病・代謝内科

監修 [ごあいさつ]
東京女子医科大学内科学講座糖尿病・代謝内科学
教授・基幹分野長
馬場園哲也

編集協力
大屋純子、小林浩子、中神朋子、花井豪、三浦順之助、柳澤慶香
アイウエオ順

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