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インスリン発見から100周年を迎えて

No.9

 

1921年にインスリンが発見されてから今年で100年を迎えました。その間、糖尿病患者さんの治療を支えるインスリン療法は、インスリン製剤と、注射器や注射針などのデバイスの両輪がそろって進歩してきました。注射器や注射針などインスリン注射デバイスの変遷について振り返ってみます。

 

ガラス製の注射器と鋼鉄製の注射針

インスリン発見の翌年、1922年には初めて動物の膵臓から抽出されたインスリンが「アイレチン」という名で製品化され、1型糖尿病の少年に投与されました。翌1923年には同インスリン製剤の発売が開始され、日本にも同年この製剤の一つが輸入されました。残念ながら、初期のインスリン製剤は純度が低く作用持続時間が短かったため、1回の注入量が多く1日に何度もの注射が必要でした。当時は、ガラス製の注射器と長く太い鋼鉄製の注射針を、煮沸消毒して繰り返し使用していました。また動物由来で純度の低いインスリンのためアレルギー症状も多く出ていました。注射時の痛みと不安感、注射器や注射針の煮沸消毒には大変な労力を要しました。

 

インスリン専用注射器の登場

当初、インスリン製剤はガラス製のバイアルに入っており、使用時には注射針をバイアルに刺し、インスリンを注射器に移して注射していました。その後1924年にインスリン専用のガラス製注射器がアメリカで製造されました。翌1925年には注射器内に数回分のインスリンを充填して投与量を設定する、現在のペン型注入器の原型といえる注射器がデンマークで開発され、注射後毎回の煮沸消毒の過程の一部が改善されました。

一方で、同時期は動物や魚からインスリンが抽出されて製剤が作られており、十分な量を確保できるインスリン製剤の開発や、アレルギー反応を起こさないヒトインスリン製剤の開発が強く望まれていました。

 

 

 

インスリン専用注射器の登場

プラスチック製使い捨て注射器の登場と普及

1954年に使い捨てのガラス製の注射器が、1961年には世界初のプラスチック製の使い捨て注射器が登場しました。その後、緊急用、災害用には使い捨てが便利という経験が積み重ねられ、1970年代に使い捨て注射器の普及が進みました。インスリン製剤専用の、注射器と注射針が一体化したプラスチック製の使い捨て注射器も登場します。この注射器は注射針もステンレス製で細く、短く、毎日のインスリン注射に適したものでした。最近、新型コロナウイルスワクチンの投与の際、ワクチンを無駄なく使用できると注目された注射器は、この一体型の注射器の進化型です。

 

注射器からペン型注入器へ

1970年代後半以降、科学技術が進み、1983年には日本でもヒトインスリン製剤が発売され、より生理的なインスリン分泌の模倣を目指したインスリンアナログ製剤への開発に続いていきます。このような製剤の進歩の背景で、注射器にも携帯性、簡便性、利便性などが求められるようになっていきました。

インスリン製剤の入ったカートリッジをペン型の注入器に装填して使用する「カートリッジ式」注入器が日本で発売されたのは1988年でした。バイアルから1 回毎にインスリン製剤を注射器に吸引する必要もなくなり、外観上も注射器には見えない「ペン型」の注入器は、患者さんの恐怖感や不便さを改善しました。その後、カートリッジの装填の必要のない「プレフィルド(キット)式」が登場し、現在に続いています。ペン型注入器は注入の手技の簡便性や持ち歩きの利便性だけでなく、注入量の精度が保たれるという利点もあります。

また、この時期、日本ではインスリン自己注射の保険適用(1981年)や血糖自己測定の保険適用(1986年)もインスリン製剤を使う糖尿病患者さんにとって福音でした。

 

注射針の進化

21世紀に入ると注射針が進化しました。痛みを軽減するためにより細く、そして、強度があり、インスリンの皮下注射に適した短い注射針が開発されました。また利便性向上のため、ペン型注入器への着脱も簡便で、かつ正確にできるような製品の開発も進みました。

 

ペン型注入器のさらなる進化

ペン型注入器の普及に伴い、高齢者、手指の機能、握力、視覚など、より幅広い患者さんの状態に合う注入器が開発されました。単位メモリの数字が見やすく大きいもの、握りやすい注入器、注入のしやすさなどが改善されています。単位設定時の音の大きさも色々な機種があり、またプレフィルドインスリン製剤の種類は注射器の色で区別されるようになり、カートリッジ製剤の注入器はいくつかの色の中から選べるようになりました。従来の注入器より注入ボタンが伸びず、軽く握って押すだけという半自動タイプのものも登場しています。聴覚、視覚、触覚を利用し、より安全で簡便に使用できるよう、個々の患者さんに適した注入器の開発が続いています。注射量や時刻の記録が残る注入器システムや、インスリン注入量を自動制御して目標の血糖値に近づける機能を備えたインスリンポンプの進化も今後益々期待したいところです。

インスリンの発見から100年経ちましたが、インスリン製剤は注射以外の投与方法は未だ確立されていません。今後も糖尿病患者さんのインスリン療法とQOLの向上のために、更なる投与方法の進化と新しい投与経路の製剤の開発を期待したいと思います。

 

 

 

ペン型注入器のさらなる進化

参考:
・粟田卓也:インスリン製剤の変遷をたどる 株式会社メディカル・ジャーナル社
・田中葉子:歯科学報 105(3), 167-174, 2005
・朝倉俊成:Drug Delivery System 31(5), 408-422, 2016
・テルモ株式会社HP:TERUMO STORY エピソードで綴るテルモの歴史 SINCE1921
・日本ベクトン・デッキンソン株式会社HP:Drug Delivery | 日本BD (bdj.co.jp)

 

 

三浦 順之助
東京女子医科大学 糖尿病センター 内科

監修
東京女子医科大学 糖尿病センター 内科
教授・講座主任
馬場園哲也

編集協力
北野滋彦、小林浩子、佐伯忠賜朗、中神朋子、花井豪、三浦順之助、柳澤慶香
アイウエオ順

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