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インスリンの100年

未来のインスリンと糖尿病

第3回

インスリンの発見から今年で100年が経過しています。糖尿病の治療、インスリン製剤の進化について、100年前に願った希望は叶ったのでしょうか。そして、これからの100年、どんな夢が叶うのでしょうか?

注射だけじゃないインスリン製剤

インスリンが発見されて間もない頃から、吸入剤、経口剤など、注射以外のさまざまな方法が試みられてきました。吸入で用いる製剤は海外にて一時期発売されましたが、発売中止になりました。経口剤のインスリン製剤については、粘膜からの吸収を高める薬剤を活用することにより、開発が進んでいます。この技術を使って、2019年には世界初の糖尿病の治療薬であるGLP-1 受容体作動薬の経口剤が米国食品医薬品局で承認されました。インスリンが経口剤になる日も近いかもしれません。

また、その他にも口腔内スプレーや経鼻薬の開発ターゲットにもインスリン製剤が挙げられています。インスリン製剤で治療をしますが、どの剤型をご希望ですか?と問われるのが、当たり前になるのかもしれません。

ポンプひとつで

インスリンポンプを使用されている方もいます。インスリンポンプはインスリン製剤を自動的に注入するだけでなく、血糖値も測定してくれる機能がついたものもあります。スマートフォンやパソコンとの連動により、低血糖や高血糖を知らせ、ご自身でその対処や、医療機関への通知などが可能になってきています。また、機器のサイズも以前に比べて小さくなってきています。血圧やほかの検査もでき、健康管理もしてくれるようなインスリンポンプが登場する時代が来るかもしれません。

なるべく少ない回数で

今までより、より長く効くインスリン製剤の開発も進んでいます。毎日の投与が、週1回や月1回の投与に変わる可能性もあります。

2種類以上のインスリン製剤を使われている方もいらっしゃいます。1回に2度注射するのは、ちょっと面倒と思っている方もいるかもしれません。2種類以上のインスリンが混ぜてあるインスリン製剤があったら便利です。そのような製剤はもう既にいくつか開発されています。これからは、もっと種類が増えたり、量が調整できるものが登場する可能性があります。

また、糖尿病治療に用いられる注射製剤はインスリンだけではありません。GLP-1受容体作動薬もあります。インスリン製剤とGLP-1受容体作動薬の両方を使ったほうが良い方には、この2剤が一緒になった製剤もあります。

移植と再生医療

膵臓移植は日本でもドナーが徐々に増えつつあり、1型糖尿病のある方に、膵臓が提供される機会が少しずつ増えています。膵島移植は1回の移植では必ずしもインスリン注射を中止することができませんが、効率的に良質な膵島を分離できる拠点がいくつかできれば、インスリン中止といった恩恵を受けられる方が増えてくる可能性もあります。

一方、再生医療の分野では、iPS細胞から膵島を作り出す以外にも、細胞シート工学を用いた移植が、意欲的に研究されています。

インスリン製剤の開発は一つひとつの課題に誠実に取り組み、努力を続けてきた結果、一歩一歩、患者さんの望む製剤ができてきました。21世紀は薬だけでなく、先端技術もその手助けをしてくれる時代です。遺伝子解析、IT、通信、素材革命、さまざまなものが日々進化しています。皆さんはどんなインスリン製剤があれば良いなと思いますか?望むインスリン製剤がある未来が、もうそこまで来ているかもしれません。

参考
民輪英之、武田真莉子:Drug Delivery System 35‐1,10-19, 2020

監修 [ごあいさつ]
東京女子医科大学内科学講座糖尿病・代謝内科学
教授・基幹分野長
馬場園哲也

編集協力
大屋純子、小林浩子、中神朋子、花井豪、三浦順之助
アイウエオ順

 

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