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インスリンの100年

インスリンの発見まで

第1回

インスリンの歴史は、1869年(明治2年)、ドイツのランゲルハンスが膵臓に特別な構造を持つ細胞を発見したことに始まります。カナダのバンティングとベストが膵臓からの抽出物が血糖を下げることを発見したのが1921年(大正10年)のことでした。インスリンの発見の歴史に携わった人々をご紹介します。

糖尿病と思われる病気は紀元前1500年代の古代エジプトの医学書に記され、日本人では藤原道長が糖尿病であったと推察されています。糖尿病の治療薬であるインスリンの発見は20世紀最大の発見のひとつであり、その後、糖尿病治療は飛躍的に進化しました。この100年の糖尿病とインスリンの歴史を振り返ってみます。

パウル・ランゲルハンス

ーランゲルハンス島を発見

膵臓でインスリンを分泌する細胞はランゲルハンス島です。ベルリン大学の医学生であったランゲルハンスは、医学部3年生の時に膵臓でこれまで報告されなかった細胞集団を見つけ、学位論文として提出しました。ランゲルハンスはこの細胞が何をしているか解明できませんでしたが、後にフランスの組織学者ラグッセが血糖調節に関わる細胞と推察し、発見者の名前を取り「ランゲルハンス島」と命名しました。

オスカー・ミンコフスキーとヨーゼフ・メーリング

ー糖尿病と膵臓の関係を発見

膵液がないと消化はどうなるのか?1889年(明治22年)、ドイツのミンコフスキーはこの疑問を解決するために、膵臓を取り除いた犬を観察することにしました。そして、この犬が多尿になるのを発見しました。犬の尿には糖が含まれていることも確認し、糖尿病は膵臓の病気であることを証明したのです。

フィレデリック・バンティングとチャールズ・ベスト

ー膵臓からの抽出物(のちのインスリン)が血糖を下げることを発見

1921年、カナダの外科医のバンティングはトロントの大学のマクラウド教授にある実験を持ち掛けます。教授はバンティングに助手としてベストを紹介しました。バンティングとベストは膵臓抽出物を糖尿病の犬に投与しました。すると血糖が200mg/dL から110mg/dL にまで低下しました。つまり膵臓の抽出物には、何か血糖値を下げる物質があることがわかりました。この抽出物はアイレチン(インスリン)と名付けられました。これが「トロントの奇跡」と呼ばれるインスリンの発見です。後に、バンティングとマクラウド教授はインスリンの発見でノーベル医学生理学賞を受賞しました。

バンティングとベスト バンティング(右)とベスト(左)
そして膵臓の抽出物の投与を受けた犬マージョリー

レオナルド・トンプソン

ー 世界で初めてインスリンの摂取を受けた患者

14歳のレオナルド・トンプソンは重症の糖尿病で体重は35kgしかありません。1922年1月11日、トロント総合病院でトンプソン少年はお尻に7.5mLずつ2回、バンティングとベストによって抽出された牛の膵臓抽出液の注射を受けます。しかし、血糖は少ししか下がらず、注射部位が腫れ上がったため、テストを中止されました。その後、生化学者のコリップが作った抽出液を再度注射したところ、血糖は520mg/dL から120mg/dL まで低下し、尿糖はほとんど消失しました。これが膵臓内分泌物質(インスリンの抽出液)を糖尿病のある方に臨床応用した初成功例となりました。その後、さらに他の患者さんに投与が行われ、良好な結果が得られました。こうしてインスリンは製剤の開発へと繋がっていきます。

参考図書
丸山工作著 新インスリン物語 東京化学同人 1992
堀田 饒訳 インスリンの発見 朝日新聞社 1993
ノーベル賞人名辞典編集委員会編 ノーベル賞受賞者業績事典 新訂版 日外アソシエーツ 2003

監修 [ごあいさつ]
東京女子医科大学内科学講座糖尿病・代謝内科学
教授・基幹分野長
馬場園哲也

編集協力
大屋純子、小林浩子、中神朋子、花井豪、三浦順之助
アイウエオ順

 

JP23DI00227