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糖尿病合併症の検査

監修:弘世 貴久 先生
   東邦大学医学部内科学講座 糖尿病・代謝・内分泌学分野 教授

重症化してからでは遅い、糖尿病合併症とは

「糖尿病」という血糖値が高い状態が続くことにより、全身の血管がダメージを受けて起こるさまざまな障害を糖尿病合併症と呼びます。

 

糖尿病合併症は体のいろいろなところで起こり、代表的なものとしては、腎臓の障害である糖尿病腎症 (腎疾患) 、眼の障害である糖尿病網膜症 (眼疾患) などがあります。

 

こうした糖尿病の合併症の状態は、血糖値やHbA1c (ヘモグロビンA1c) の検査だけでは分かりません。そのため、 気づいたら糖尿病の合併症が進行していたということも少なくありません。

適切に合併症の検査を受け、体の状態について正しく把握することが大切です。

 

【糖尿病の主な合併症】

糖尿病合併症の検査について

合併症にもよりますが、症状に応じて1年に1回を目安に定期的に検査をうけましょう。

糖尿病腎症(腎疾患)

糖尿病腎症は、腎臓の中の細い血管がダメージを受けることで引き起こされます。体に不要なものを血液の中から取り出して尿として外に捨てるという腎臓の働きが徐々に弱っていきます。進行すると人工透析が必要となります。

糖尿病腎症(腎疾患)の検査

【尿中微量アルブミン検査】

尿中微量アルブミン検査は、尿検査で実施され、腎臓の血管がダメージを受けることで尿の中に出てくるアルブミンというタンパクの量を測定します。
健康診断などで行われる尿検査よりも、糖尿病腎症のステージがより早い段階で見つけ出すことができます。 

【血清クレアチニン検査】

腎臓が悪くなると、血液の中からクレアチニンを取り出して尿として外に捨てる働きが弱まり、血液の中のクレアチニンの量が増えていきます。血清クレアチニン検査は、このように血液の中で増えてくるクレアチニンを測定する検査です。
この血清クレアチニン検査は、血液検査によって実施され、その結果はeGFRと呼ばれる腎臓の働きをあらわす重要な数値を計算するためにも用いられます。

■eGFR
血清クレアチニン検査の値と年齢、性別から算出されるeGFRは、尿中微量アルブミン検査の結果と組み合わせて、糖尿病腎症の進行の程度の予測値を算出したものです。
eGFRが筋肉の量や食事、運動などの影響を受けることが知られています。 

尿検査 (検尿) 

あなたの尿を取って、その中に含まれるタンパク(尿タンパク)や血液(血尿)を測定します。
腎臓が悪くなると尿の中にタンパク(尿タンパク)が出てきます。また、尿に血が混じっているということは腎臓からの出血である可能性があります。

 

糖尿病網膜症(眼疾患)

糖尿病網膜症は、眼の裏の網膜の中の細い血管がダメージを受けることで引き起こされます。網膜は、カメラに例えると光や色を感じるフィルムの役割をしており、その働きが低下して視力が落ちていきます。適切な治療を施さないと、失明に至ることもあります。

糖尿病網膜症(眼疾患)の検査-眼科で受診

【眼底検査】

眼底検査は主に眼科で、特殊なカメラで網膜を撮影して網膜の血管の状態を調べます。検査に痛みはなく、30~1時間程度で終ります。
眼底検査では黒目の部分(瞳孔:どうこう)を広げる目薬が使われるため、その効果が続く間はまぶしく感じやすくなりますから検査後の車の運転は控えましょう。

 

歯周病

糖尿病では歯周病になりやすく、そして悪化しやすくなります。また、歯周病が重症であるほど血糖管理が悪くなることも分かっています。
歯周病は歯肉の腫れや出血、口臭などの原因となり、歯が抜けてしまうこともあります。

歯周病の検査-歯科で受診

【歯周病の検査】

歯周病の検査は、主に歯科で、歯肉の炎症や出血の程度、歯周ポケットの深さ、歯のぐらつき、口の中の衛生状態(磨き残しがないか)などを確認します。また、歯のレントゲン(X線)写真を撮り、歯を支えている骨の状態なども確認します。

 

糖尿病神経障害(神経疾患)

足先の神経細胞の代謝(成分バランス)が乱れ、また細い血管がダメージを受けて、神経に障害が起こります。足先のしびれや冷感、感覚の異常などがあらわれ、激しい痛みを伴うこともあります。糖尿病足病変と合わせて足の切断の原因となります。

糖尿病神経障害(神経疾患)の検査

【糖尿病神経障害(神経疾患)の検査】

しびれ、痛み、感覚の低下・異常などの自覚症状が手掛かりとなります。
また、アキレス腱の反射をみる検査や振動刺激を感じることができるかをみる検査が行われます。神経の伝導速度を測る検査や、自律神経機能検査 (CVRR) もあります。
アキレス腱反射は、糖尿病外来で確認することもできますが、神経伝達速度や自律神経機能検査は、専用の検査機器が必要なため、神経内科や総合病院での検査が必要になります。

 

動脈硬化性疾患(心血管疾患など)

糖尿病は、全身の比較的太い血管に動脈硬化を引き起こします。動脈硬化とは血管が硬くなりしなやかさがなくなってしまった状態です。高血圧や脂質異常症、肥満、喫煙などと組み合わさって心筋梗塞や脳卒中などの原因となります。

動脈硬化性疾患(心血管疾患など)の検査

【動脈硬化性疾患(心血管疾患など)の検査】

血糖値に加えて血圧値、LDLコレステロールやHDLコレステロール、トリグリセライド (中性脂肪) などの脂質値も重要となります。
動脈硬化の程度をみる検査として、首の血管の超音波 (エコー) 検査が行われることがあります。
心臓の状態を確認するために、心電図検査や心臓のレントゲン (X線) 検査、頸動脈の超音波 (エコー) 検査、動脈硬化検査 (ABI, CAVI) などが行われます。

 

弘世先生からのメッセージ

糖尿病治療の最終の目的は、合併症を防ぎ、健康な人と変わらない人生を歩むことにあります。その実現のためには、日々の血糖管理が重要になります。

しかし、長い間血糖値が高い状態が続くと、全身で糖尿病の合併症が静かに、そして確実に進行してしまいます。残念ながら、それらの合併症の状況を確認するためには、血糖値の検査だけでは分かりません。

 

みなさんもぜひ一度、ご自分の10年後を想像してみてください。

どのようなあなたでありたいですか?

 

合併症が進行し、手遅れになる前に、血糖管理の他に合併症の検査を受けましょう。

専門の診療科でないと受けられない検査もあります。

まずは主治医の先生に相談してみてください。

そして主治医の先生と一緒に合併症に正しく向き合っていきましょう。

 

あなたの10年後が笑顔であることを願っています。

 

糖尿病の合併症

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