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糖尿病と低血糖

低血糖を正しく理解しよう
~低血糖と、その存在を知るために役立つ持続血糖測定 (CGM) のおはなし~

監修:東京慈恵会医科大学 糖尿病・代謝・内分泌内科 主任教授 西村理明先生


低血糖ってなに?

血液に含まれる糖 (ブドウ糖) は、生きるために欠かせないエネルギー源です。糖尿病でない人の血液に含まれる糖の量、すなわち血糖値は100mg/dLを中心とした狭い範囲 (約70-140 mg/dLの間) に維持されています。しかし、糖尿病のある方ではこの量を一定に維持することができません。血液中の糖の需要と供給のバランスが崩れ、糖が増えすぎると“高血糖”、逆に薬が効き過ぎるなどして糖が少なくなりすぎると“低血糖”になってしまいます。

糖尿病のコントロールを良好に保つには、血糖に影響を与えるさまざまな要因 (食事、運動、治療薬など) をよく理解して、糖の需要と供給のバランスをうまくとっていくことが大切になります。


どんなときに低血糖になりやすい?

まず、ご自身が糖尿病治療のために使用している薬が低血糖を起こしやすいか否かを把握しましょう。一般に低血糖を起こしやすい薬は、スルニホニル尿素 (SU) 薬とインスリンです。他の薬剤でも起こることがあります。低血糖はいつでも起きる可能性がありますが、その可能性が高まる場面は以下に示すように、普段と異なることをしたときです。低血糖の症状はさまざまです。集中できなかったり、いつもしていることに時間がかかってしまう場合は低血糖の可能性もあります。あれっと思ったら、血糖値を測り確認をしてみましょう。

寝ている間に起きる低血糖に注意

睡眠中に低血糖が起きていても気づかない場合が多々あります。
また、日中に起こる低血糖と症状や原因が異なり、寝る前の運動や食事、入浴などのちょっとした行動が原因になることもあります。

さらに、夜間低血糖を起こすとその反動で翌朝、高血糖になることがあり、その高血糖が尾を引くと一日のコントロールに悪影響を及ぼすことも少なくありません。
一日の血糖管理を良好に維持するためにも、寝ている間の血糖値の状態、特に夜間に低血糖が起きていないか注意しましょう。

夜間低血糖が起きているかわからないという方は、こちら


低血糖の症状は?

個人差はありますが、一般的には血糖値が70mg/dL以下になると自律神経の反応 (血糖値を上げようとする) による症状が出現します。これを警告症状と呼んでいます。さらに血糖値が下がり、50㎎/dL以下になると、中枢神経にまで影響し、意識障害等の症状が出現することがあります。
図に記した症状は、代表的な低血糖の症状です。しかし、低血糖の症状は個人差があります。低血糖になった時に、自分の低血糖の症状を確認し、覚えておくことはその後、重症低血糖を防ぐことにも繋がります。
 

無自覚性低血糖

無自覚性低血糖とは、血糖値が下がっても代表的な低血糖症状 (自律神経系の症状) があらわれず、そのまま血糖値が下がり意識障害や昏睡などの重篤な中枢神経系の症状が突然あらわれてしまう低血糖です。

無自覚性低血糖の誘因として、低血糖や夜間低血糖を繰り返していることがあげられます。そのため、本来なら体を守る自律神経が機能せず、血糖値を上げようとする反応が出にくくなってしまうのです。

無自覚性低血糖を繰り返し起こしている場合は、ある一定期間、低血糖を起こさないように心掛け、低血糖へ体が反応するようにしていくことが大切です。
 


低血糖になったときの対処法

低血糖の症状を感じたらすぐに、ブドウ糖 (錠剤やゼリー状になったものもあります) を10g、あるいは砂糖20gをとるか、同等の糖分を含む市販飲料 (例:コーラなど) を飲みます。

低血糖はいつ、どこで起こるかわからないので、ブドウ糖をつねに携帯しておくことが大切です。家族や周りのひとにも、低血糖の症状や、対処法を覚えてもらいましょう。 

α-グルコシダーゼ阻害薬を服用しているとき

砂糖は十分吸収されないので、必ずブドウ糖を服用しなければなりません。

低血糖で意識障害や昏睡になった場合

すぐ周りのひとに病院へ運んでいただくか、救急車を呼んでもらう必要があります。万が一に備え、あらかじめ周囲のひとにお願いをしておきましょう。

グルカゴン点鼻薬があるとき

2020年にグルカゴンの点鼻薬が使用できるようになりました。これまでの注射剤とは違い、投与が極めて簡便になっています。使用に際しては、あらかじめ医療機関で支援を受けていただくことをおすすめします。お出かけなどの際は、必ずこの点鼻薬を持ち歩くようにしましょう。

糖尿病のある方用IDカードを所持しましょう。

糖尿病のある方用IDカード (発行者:公益社団法人日本糖尿病協会) とは、突然重度の低血糖や意識障害、昏睡状態になってしまったとき、周りのひとに、自分が糖尿病で治療中であることを知らせるためのものです。
低血糖が起こったときに、すぐに低血糖症状を理解し、助けてくれるひとがいつも周りにいるとは限りません。
糖尿病のある方用IDカードを常に持ち歩くことも、低血糖になってしまった時の重要な対策の一つとなります。


低血糖はなぜよくないの?


低血糖があると、短期的にも長期的にもさまざまな弊害を起こします。

短期的な弊害

生活の質(quality if life:QOL)が低下する

低血糖症状が起こると、日常生活の中で行動が制限されたり、意欲がなくなったり、QOLが低下するようになります。

血糖管理がうまくいかない

血糖値が下がると、体内で血糖値を上げるホルモンが増えて、逆に高血糖が助長されることがあります。また、低血糖を恐れるあまり、薬やインスリンの量を減らしたり、ついつい食べ過ぎてしまったりして、治療効果に悪影響が出ることもあります。
実際に低血糖の回避行動をとってしまう糖尿病のある方は少なくありません。

長期的な弊害

心血管疾患が起こりやすくなる

低血糖があることによって、不整脈、狭心症、心筋梗塞などの病気が誘発される、あるいは悪化することが報告されています。

認知障害が起こりやすくなる

低血糖により、認知機能が低下することが報告されています。

血糖値を記録して、低血糖になりやすい時間やパターンを予測しよう

血糖値を記録し、低血糖になりやすい時間や原因を把握することで、次の低血糖を予防することができます。
自分の血糖値の特徴を理解することで、より良い血糖管理にも結びつきますので、血糖値を記録してみましょう。


自分は低血糖になっている?
CGM (持続血糖測定) のすすめ


最近よく耳にするCGMって?

CGMは「Continuous Glucose Monitoring」の略で、日本語では「皮下連続式グルコース測定」と呼ばれています。その名のとおり、数日間連続して血糖値を測定することができるシステムで、血糖自己測定 (SMBG) では十分に把握できなかった血糖変動の推移を知ることができます。

画像提供:日本メドトロニック株式会社

画像提供:日本メドトロニック株式会社

CGMはどのように行うの?

CGM機器は、センサーを皮下に刺して間質液中のグルコース濃度を測定し、体に装着した測定器にデータを記録します。測定は10秒ごとに行われ、5分ごとの平均値が記録されるようになっており、1日288回の測定値を記録することができます。
最近は小型の機器が開発されており、防水性も高くなっていることから、日常生活での使い勝手が格段に向上しています。

 

画像提供:日本メドトロニック株式会社

CGMでわかること

CGMにより、これまでは誰も見ることができなかった血糖値の実際の変動が、目に見える形 (グラフ) でわかるようになりました。日常の食事や行動の記録、さらには治療内容と照らし合わせることにより、生活習慣や薬物治療が血糖変動にどのように影響しているかを一目で判断することができます。
特に、睡眠中の血糖変動を見ることができる意義は大きく、このCGMが使われるようになってから、夜間低血糖を起こしている患者さんが予想以上に多いことがわかってきました。
 

どのような血糖変動が理想なのか?

血糖値は、食事の内容や量、運動の内容、そして使用している薬によって変動します。一般に、血糖値が高いときと低いときの差 (これを血糖変動幅といいます) が大きいほど動脈硬化が進行し、大血管障害などの糖尿病合併症につながりやすいと考えられています。従って血糖変動幅を狭め、血糖値の推移をできるだけフラットにする必要があるでしょう。

CGMの結果はどのように治療に反映されるの?

生活習慣ならびに薬物治療と血糖変動との関係がわかるため、より良好な血糖管理につながる方策をたてることが可能になります。たとえば、CGMによって夜間低血糖が判明した患者さんの場合は、夜間低血糖を起こしにくいようなインスリン治療に切り替えるなど、最適な治療を選べるようになります。

CGMは、どの医療機関でも行えるの?

CGM機器は2010年に医療機器として保険適用となり、使用できる医療機関が増えてきました。対象者につきましては、細かい規定がありますので、主治医の先生に相談してみるとよいでしょう。なお、CGM測定1回の自己負担額は3割負担で約5,000円程度となります。しかし、自由診療にて実施している病院もありますので、詳細はかかりつけの病院にお問い合わせください。


低血糖にならないために


自分の血糖変動を知るために、SMBGも有効に使おう

SMBGは測定時点の血糖値しかわかりませんが、こまめに計測することで、大まかな血糖変動を把握することができます。SMBGの結果を常に記録し、自分の血糖変動幅がどのくらいなのかを知っておくことが大切です。可能であれば、家族の方に睡眠中の血糖値を測ってもらうとよいでしょう。
 

低血糖にならないために

高すぎず低すぎず。適切な血糖値を維持することは、“質のよい血糖管理”と呼ばれています。起きている時間帯の低血糖に注意することはもちろん、寝ているときにも低血糖を起こすことがないよう、かかりつけ医の先生にあらためて相談することをおすすめします。

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