
治療には、食事療法、運動療法を基本としますが、それでも改善できない場合はさらに薬物療法を追加して行います。
2型糖尿病でも、すい臓のインスリンを出す能力が非常に低いひとや、長期間血糖値が高い状態をほうっておいたひと、さらには糖尿病の期間が長いひとでは、インスリン療法が必要になってきます。「糖尿病が悪化した」からインスリン療法が必要なのではなく、2型糖尿病の状態はさまざまであり、患者さん一人ひとりの状態によってインスリン療法が必要になると考えましょう。
糖尿病にはいくつかの種類があります。そのわけ方は、糖尿病になる原因や状態などでいくつもの方法があります。ここでは、代表的なわけ方と一般的に知られている糖尿病を紹介します。
糖尿病は、糖尿病になる原因別に大きく4つの種類にわけることができます。
糖尿病と糖代謝異常※1の成因分類※2
Ⅰ.1型 膵β細胞の破壊、通常は絶対的インスリン欠乏に至る A.自己免疫性B.特発性 |
Ⅱ.2型 インスリン分泌低下を主体とするものと、インスリン抵抗性が主体で、それにインスリンの相対的不足を伴うものなどがある |
Ⅲ.その他の特定の機序、疾患によるもの A.遺伝因子として遺伝子異常が固定されたもの ①膵β細胞機能にかかわる遺伝子異常 B.他の疾患、条件に伴うもの ①膵外分泌疾患 |
Ⅳ.妊娠糖尿病 |
※1:一部には、糖尿病特有の合併症をきたすかどうかが確認されていないものも含まれる。
※2:現時点ではいずれにも分類できないものは、分類不能とする。
〔日本糖尿病学会糖尿病診断基準に関する調査検討委員会:糖尿病の分類と診断基準に関する委員会報告(国際標準化対応版). 糖尿病55:490,
2012〕
〔日本糖尿病学会 編・著:糖尿病治療ガイド2020-2021, P18, 文光堂, 2020〕
1型糖尿病には、自己免疫反応 (じこめんえきはんのう) の異常やウイルス感染により、すい臓のβ細胞 (べーたさいぼう) を自分で攻撃してしまい、インスリンを出す機能を壊してしまうタイプ (自己免疫性) と原因不明のタイプ特発性 (とくはつせい) の2つがあります。
いずれのタイプでも患者さんのすい臓は、自分でインスリンをだす力がなくなってしまいます。そのため、治療にはインスリン療法が必要です。
特徴としては、10~20代の若い人に突然発病する場合が多いですが、高齢者でも1型糖尿病として糖尿病を発症することがあります。
日本では、2型糖尿病に比べ非常に発症率が低いのが特徴で、1年間に10万人の中で約1.5〜2.5人ほど、1型糖尿病を発症するひとが存在すると言われています。※1最も高い国はフィンランドで、1年間に10万人の中で約40人ほど、1型糖尿病を発症するひとが存在すると報告されています。※2
最近では、遺伝子のなかである特徴をもつ遺伝子と1型糖尿病との関連が認められており、1型糖尿病の発症メカニズムの解明が期待されています。
糖尿病を発症してすぐは食事療法と運動療法で血糖管理ができ、徐々に1型糖尿病の状態になっていくタイプがあります。このタイプの糖尿病は、緩徐進行1型糖尿病
(SPIDDM)
と呼ばれています。一見、2型糖尿病のような状態から始まるため、間違って2型糖尿病と診断されることがあります。緩徐進行1型糖尿病の患者さんは、すい臓のインスリンをだす状態によってインスリン療法をスタートします。
最初に糖尿病症状が確認されてから (血糖値が高い状態になってから) 、数日で状態が急激に悪化するタイプの患者さんがいます。このタイプの糖尿病は、劇症1型糖尿病と呼ばれています。
劇症1型糖尿病のある方の特徴
・発症する90%以上が20歳以上である
・約70%の患者さんで直前に風邪
(発熱) の症状がある
・妊娠をして発症した1型糖尿病のほとんどは劇症1型糖尿病
・すい臓の自己免疫抗体はみられない
日本の糖尿病のある方の約95%は、2型糖尿病です。
糖尿病になる要因には、遺伝的要因と環境的要因があります。遺伝的要因とは、両親や親戚に糖尿病をもっているひとがいると普通のひとより糖尿病を発症する可能性が高いタイプであるということです。
環境的要因とは、“食べすぎ”“運動不足”“ストレス”といった生活習慣のことを言います。
これらの要因が、複数組み合わさり糖尿病になると考えられています。このように2型糖尿病の場合、生活習慣も重要な要素であることから、「生活習慣病」と呼ばれています。
糖尿病の分類 | 1型 | 2型 |
発症機構 | 主に自己免疫を基礎にした膵β細胞破壊.HLAなどの遺伝因子に何らかの誘因・環境因子が加わって起こる.他の自己免疫疾患 (甲状腺疾患など) の合併が少なくない | インスリン分泌の低下やインスリン抵抗性をきたす複数の遺伝因子に過食 (とくに高脂肪食) 、運動不足などの環境因子が加わってインスリン作用不足を生じて発症する |
家族歴 | 家系内の糖尿病は2型の場合より少ない | 家系内血縁者にしばしば糖尿病がある |
発症年齢 | 小児~思春期に多い.中高年でも認められる | 40歳以上に多い.若年発症も増加している. |
肥満度 | 肥満とは関係がない | 肥満または肥満の既住が多い |
自己抗体 | GAD抗体、IAA、ICA、IA-2抗体、ZnT8抗体などの陽性率が高い | 陰性 |
〔日本糖尿病学会 編・著:糖尿病治療ガイド2020-2021, P19, 文光堂, 2020〕
HLA:human leukocyte antigen
GAD:glutamic acid
decarboxylase
IAA:insulin autoantibody
ICA:islet cell
antibody
IA-2:insulinoma-associated antigen-2
ZnT8:zinc
transporter 8
妊娠中に初めて確認された、もしくは発症した糖尿病にいたっていない血糖が通常よりも高い状態を妊娠糖尿病と呼びます。
血糖が通常より高い状態とは75gOGTTにおいて下記の基準を1つ以上満たしている状態を言います。
・空腹時血糖値 92mg/dL以上
・食後1時間血糖値 180mg/dL以上
・食後2時間血糖値 153mg/dL以上
(※臨床診断で糖尿病と診断された場合は対象外とされます)
妊娠すると、赤ちゃんに十分な栄養を与えようとして血糖値が高くなったり、胎盤からインスリンを効きにくくするホルモンが分泌されます。そのため、妊娠中に初めて発見された糖尿病、あるいは糖尿病にはいたっていない糖代謝異常
(血糖値がやや高め) のことを妊娠糖尿病といいます。
赤ちゃんに影響する可能性があるため、血糖管理をきちんと行うことが大切です。
もともと糖尿病をもっている女性が妊娠したときには、糖尿病合併妊娠と呼びます。
子供が発症する糖尿病のことをいいます。多くは1型糖尿病でしたが、最近では、肥満児が増え2型糖尿病の子供も増えつつあります。
がん、すい臓の病気など、他の病気が原因で発症する糖尿病があります。
※1
Kida K, et al: Incidence of type 1 diabetes mellitus in
children aged 0-14 in Japan, 1986-1990, including an analysis for
seasonality of onset and month of birth: JDS study. Diabet Med
17:59-63,(2000)
※2
The DIAMOND Project Group:
Incidence and trends of childhood Type 1 diabetes worldwide 1990-1999.
Diabet Med 23: 857-866,(2006)
JP23CD00087