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国内インスリンの歴史 第3回 日本の糖尿病研究のパイオニア 坂口 康藏

日本におけるインスリン製剤や糖尿病治療の歴史について、知られざるエピソードを交えてお届けする全10回の連載シリーズです。第3回は、糖尿病治療の基礎をつくり上げた日本の糖尿病研究のパイオニアである坂口 康藏(こうぞう)先生の数多くの功績と熱い想いをご紹介します。

坂口 康藏先生とは

坂口 康藏先生は、1910〜1950年代に日本の糖尿病治療の発展のために力を注いだ研究者です。大学卒業後に医科学教室に入り、そこで学んだ研究技術を活かして糖尿病の研究を進めました。残した功績の大きさから、1957年に日本糖尿病学会が設立された際には、初代名誉会長にも選ばれています。

近代糖尿病学の黎明期から日本を代表する研究者として、また指導者としても活躍した先生は、「日本の糖尿病研究のパイオニア」と呼ばれる存在でした。

坂口先生の考える「糖尿病」

先生は、「糖尿病とはどのような病気なのか」を考えるにあたって、インスリンが分泌される機能に着目しました。膵臓の機能が健全なら、たとえ食事を多く取っても十分な量のインスリンが糖を処理してくれるので、血糖の量は大きく上昇しないと考えたのです。つまり糖尿病とは、「インスリンをつくる機能が健康な人に比べて弱いために、食事をするとインスリンがうまく生成されずに血糖値が大きく上昇することで発症する病気」であると先生は判断しました。

先生は、常に「糖尿病の早期発見こそ医師の義務だ」という姿勢をとり、病状が重くなる前に糖尿病を発見する方法として検尿の必要性を説きました。また糖尿病ではない糖尿を、糖尿病と誤って診断して必要のない治療を行ってしまうことのないように、検尿を繰り返し行い、①尿中に糖が排出される時の血糖値の高さ ②食事後の血糖値上昇の程度 ③炭水化物の摂取量とインスリンが①②に及ぼす影響の強さ の3つのポイントから鑑別するという、長年の研究を踏まえた診断方法も確立しました。

坂口先生の考える「糖尿病の治療」

先生は、「膵臓」が過労にならないよう適度に働かせ、また訓練によってその機能を少しずつ高めていくことで、負担を軽くしていくのがよいと考えました。

インスリン発見前の糖尿病治療は、食事の内容を厳しく管理する食事療法だけでした。この療法によって血液や尿に含まれる糖を減らすことはできますが、患者さんの苦痛は大きく、体が衰弱していくばかりでした。

先生は研究を進め、「少なくとも米飯を1椀ずつと適量の副食物が取れるように、必要な時にインスリン製剤を使うのが良い」と理想的な食事療法のあり方を明らかにしました。先生が目指したのは、本人が苦痛を感じず、世話をする家族にとっても負担の少ない治療の実現でした。

やがてインスリン製剤が日本に導入されると、先生はすぐに治療に取り入れ、海外の文献の解説など正しい臨床応用を広めるための活動も行いました。また、食事のたびに医者が注射をすることは難しいため、患者さんや家族への知識の共有とインスリン製剤の自己注射を早くから推進していたといわれています。

坂口先生は、「治療は病ではなく人を治すもの。その患者さんのできる方法でないと、意味がないのだ」と説き、ただ血糖値を下げるだけではなく、患者さんの苦しみを少しでも取り除くことを考えた研究を続けました。先生が奨めた治療方法は、今日の糖尿病治療にも通じる部分が多く、坂口先生は先見性の高い素晴らしい研究者だったといえるでしょう。


<参考文献>

・Diabetes Journal編集委員会 編、『日本における糖尿病の歴史』 ,山之内製薬株式会社1994年、p12- p20

管理番号:2515-1-1782-01