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南 昌江さん 【後編】

福岡県でクリニックを開業されている南 昌江先生をご紹介します。南先生の専門は糖尿病で、同時にご自身も糖尿病とともに生きています。インスリンを使いながら、たくさんの糖尿病のある方を診ていらっしゃいます。医師として、患者として、南先生は、どんな糖尿病生活を送っていらっしゃるのでしょう。その生活を2回にわたって特集します。

合併症の恐怖に怯えた医師になりたての頃

私は糖尿病にならなかったら、"できなかった"・"しなかった"ことがたくさんあるように感じます。それは、病気があると、自分の人生が限られていることがわかるからです。病気を経験し、自分と向きあい、だからこそ、何かをしようという気持ちが沸いてきました。
医師になったばかりの頃、自分と同じ年だったり、自分と同じ頃に発症した方が、眼が見えなくなっていたり、合併症が進行している患者さんに出会いました。患者さんと自分を重ねてしまい、『ああ、私も近いうち合併症が発症するのでは?』と思ったら、とても怖くなりました。医師を辞めて逃げ出したい、もう糖尿病を診たくないと思ったことがあったのも事実です。
また、医師なのに合併症が出たら、患者さんに笑われるのではないかとプレッシャーを感じたこともありました。私自身、合併症は怖いし、もし合併症が出たら、恥ずかしくて人前に出られなくなる、医師なんて続けていけないのではないかと思いこんでしまいました。勿論、合併症を防ぐためには血糖管理が大切です。しかし、合併症は必ずしも自分の糖尿病治療の結果ではないと思っています。がんばっても合併症を発症する方もいるのです。一生懸命生きてきたのだから、合併症が出ても恥ずかしくない、そう私に教えてくれたのは患者さんです。突然眼が見えなくなった、透析になった、そこにはさまざまな理由があり、患者さんが必死に努力をしても医療環境などに恵まれないケースもあるのです。その方ががんばっていたときの姿を、私は忘れません。そう思う患者であり、患者さん一人一人のがんばりを理解できる医師でありたいと思っています。
 

クリニック開業で感じた不安と新たな決意

クリニックを開業した頃も、いろいろ苦労はありました。当時は女性の起業には、まだまだ理解の少ない時代でした。病気のない女性でも厳しかったですし、まして持病があるとなると、社会の応援をほとんど望めない状況でした。
これから先、合併症もなく、仕事を続けられるのか?父や社会からの融資を無事返済していけるか?正直不安に思いました。そんなとき父から「今まで、糖尿病があるから、できなかったこと、あきらめたことが何かあったか?」と問われました。学生時代アルバイトをしたいとか、米国に留学したいなど、やりたいことは実行してきました。その陰には、父の「自分の体を管理し、責任を持て」の言葉がありました。励まし、支えてくれていたことに改めて感謝し、今まで以上に体調を十分管理することを心に決め、今日に至っています。
 

 

海外旅行では、血糖値を目安に健康管理

国内にとどまらず、仕事やプライベートで海外へ出かけることも多くなりました。海外旅行では、まず機内食に気をつけます。機内では動かないので、活動量が減ります。機内食は残すか、事前に糖尿病食を予約しておきます。お酒を飲むこともありますが、少量にしています。
インスリンですが、持効型インスリンが切れないようにだけ注意しています。超速効型インスリンは、時差の影響で食事時間が変わりますので、血糖値を測定して、その数値を見ながら、微調整をしています。
街を歩きまわる観光旅行、バスツアーであまり歩かない旅、グルメ旅行など食事が多めの旅など、旅の内容により、低血糖になりやすい旅、高血糖になりやすい旅などいろいろあります。私にとって血糖測定器は旅の必需品です。血糖値を測定して、インスリン量を調整し、体調管理を心がけています。
それから、インスリンは数か所の手荷物に分けて、多めの量を持っていきます。旅先では、どんなアクシデントが起こるかわかりません。備えあれば、憂いなしだと思います。
 

 母とノルウェーやハワイ旅行へ

好きなことを、もっともっと!ホノルルマラソンへの挑戦

私はスポーツが大好きです。5キロ程度から始めたランニングは、今ではフルマラソンにも参加するにまでなっています。自分でも、ホノルルマラソンに参加するのは、夢のまた夢と思っていました。でも、あるとき、講演でご一緒した糖尿病の専門医が、前年ホノルルマラソンに参加したお話を、とても楽しそうにしてくださいました。そして、「5キロ走れるの?じゃあ、先生ならがんばったらフルマラソンもできるよ。」と励ましの言葉をいただきました。専門医の先生が言ってくださるのだから、もしかしたら・・・と思ってトレーニングを始めました。あの先生の後押しがなかったら、ホノルルマラソンの夢は叶わなかったと思います。

marathon    2010年ホノルルマラソン完走!

しかし、やはり心配は低血糖です。低血糖は、インスリンと食事・運動量のバランスで起きます。ですから、血糖自己測定器は手放せません。私にとって、血糖自己測定は安心を得るための道具だと思っています。
私の場合、フルマラソンの直前には炭水化物を十分に、いつもの1.5~2倍ほど摂ります。持効型インスリンは半量に減らし、超速効型は3割程度減らします。8~10キロ毎に120キロカロリー程度の補食をしています。補水は給水所ごとにします。血糖値測定は、不安を感じたら途中で1~2回行います。走っていると、時々疲れてきついのか、低血糖で辛いのか、わからなくなることもあります。そんなとき、血糖測定の結果は大切な判断になります。走った後は、つい、いつもより多めに食べたりしますので、走った後のインスリンは大抵の場合、普段と同じ量のインスリンを打っています。
他の糖尿病のランナーさんのお話を聞いていると、皆さんそれぞれの体調に合わせて、工夫をされているようです。補食やインスリンの量など、いろいろな方法があるので、ご自身にあった方法を見つけるのがよいと思います。

南先生流 マラソン時のインスリンと捕食の仕方

糖尿病と診断されたばかりの方へ

糖尿病になると、生活が制限されると思っていらっしゃる患者さんも多いのかも知れません。私は「糖尿病は苦痛ではない」ことをみなさんにお伝えしたいと思っています。1日3度、適量の食事をなるべく決まった時間に摂り、適度な運動をすることは、特別なことではありません。むしろ、昔から人々が行ってきた健康的な生活です。生活を規則正しくすることは良いことなのです。食事や運動に気をつけながらも「糖尿病にしばられない」ようにしてほしいと願っています。そして、目標を持って生活することも大切です。楽しめることから、食事療法でも、運動療法でもはじめてください。さあ、何か楽しいことをしよう!と考え、実行し、人生を楽しんでいただきたいと思います。

南 昌江さん プロフィール

中学2年生で1型糖尿病を発症。
福岡大学医学部卒業後、東京女子医科大学付属病院、九州厚生年金病院、福岡赤十字病院などの勤務を経て、1998年福岡市に南 昌江内科クリニックを開業。
日本内科学会内科認定医、日本糖尿病学会専門医、日本糖尿病学会評議委員。
主な著書には「わたし糖尿病なの」(医歯薬出版)などがあり、2011年10月には病院スタッフと共著のレシピ本「アイディアいっぱい糖尿病ごはん」が出版される。

※2011年取材当時の情報です。


※この記事は2011年に行った取材を基に作成しています。

糖尿病とともに生きるヒント

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