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体重と糖尿病

No.3

体重と糖尿病

体重と糖尿病との密接な関係は古くから知られています。糖尿病の発症と体重、そして治療薬と体重について、東京女子医科大学糖尿病センター内科 中神 朋子先生にご解説頂きます。

 

肥満の現状

体重増加の原因は、病気や遺伝などもありますが、ほとんどが過食や運動不足、睡眠不足や生活リズムの乱れ、ストレスなどの生活習慣と関連して生じます。肥満とは、脂肪組織に脂肪が過剰に蓄積した状態です。肥満の程度を判定する簡易的な方法に、肥満指数(BMI*:body mass index)があります。BMI 22を標準体重とし、BMI が25以上の場合は肥満と判定されます。

厚生労働省の「平成29年国民健康・栄養調査の概要」によると肥満者(BMI 25以上)の割合は男性30.7%、女性21.9%であり、この10 年間でみると、男女とも増減はみられていません(図)1)。一方、糖尿病データマネジメント研究会の集計では、糖尿病患者さんにおける平均BMI の年次推移は1 型・2 型糖尿病患者さんの両群において増加傾向にありましたが、2型糖尿病においては2014年に低下し、その後維持されています2)

 

肥満者(BMI 25以上)の割合の年次推移

 

若年時から肥満に注意

肥満は2型糖尿病発症の危険因子のひとつで、多くの研究からBMI が高いほど糖尿病の発症が多くなることがわかっています。特にアジア人は欧米人と比べて、同じBMI でも糖尿病になりやすく、少しのBMI の増加でも糖尿病の発症リスクが高くなることがわかっています3)。また、現在の肥満度だけなく、18~24歳にBMI が1 高くなる体重増加があると、糖尿病発症リスクが18%も上昇するという報告4)もあり、若年齢から肥満に注意する必要があります。

 

肥満はインスリン抵抗性を引き起こす

インスリン抵抗性とは、血糖値を正常範囲に維持するために過剰なインスリンを必要とする状態といえます。肥満による糖尿病は、主にこのインスリン抵抗性によるものと考えられています。脂肪細胞は中性脂肪を蓄えているだけでなく、生理活性物質である数種類のアディポサイトカインという物質を産生し、分泌する働きがあります。内臓脂肪が蓄積するとアディポサイトカインの中でも、インスリンの働きを阻害したり、動脈硬化を促進したりする作用があるTNF - α( 腫瘍壊死因子)や血栓を生じさせるPAI -1(プラスミノーゲンアクチベーターインヒビター-1)が多く分泌され、一方、インスリンの働きを高め、高血糖を抑制する作用のあるアディポネクチンの分泌が低下します。そのため、インスリンの働きを補うために、膵臓ではインスリン分泌を増やすことになります。しかし、過剰に働く膵臓は疲弊し、インスリン分泌が減少するため、高血糖状態が続いてしまいます。これが肥満に関連して起こる糖尿病です。

 

日本人では肥満のない糖尿病が多い

日本人ではインスリン分泌の低下による糖尿病が多いので、肥満を伴わずに発症する方も少なくありません。最近の報告では、正常体重で健康な方でも、インスリン低抗性が始まっている方がいることがわかってきました。正常体重でも、体脂肪率に注意して健康管理を行い、普段から歩く時間を増やすなど、運動をする習慣を身につけることが重要です5)

 

糖尿病発症時などの2型糖尿病患者さんの体重減少

インスリンは糖を取り込んでエネルギーとして利用できるようにするだけでなく、グリコーゲンとして肝臓に蓄えたり、蛋白質や脂肪を合成する働きなどもあります。糖尿病が進行してインスリン分泌が枯渇すると、高血糖が続くことに加え、糖やアミノ酸を十分に取り込むことができなくなるため、不足したエネルギーを筋肉や脂肪を分解して補うようになります。そのため、食事や運動などの量が変わっていないのに、体重が減少することがあります。糖尿病患者さんでは、体重減少は血糖コントロールの悪化が原因のことも少なくありません。

 

糖尿病の治療薬と体重の増減

糖尿病治療の基本は、食事・運動療法ですが、これらを十分に行っているにも関わらず、血糖コントロールが改善されない場合は薬物療法を行います。糖尿病の治療薬の中には、体重が増加しやすい薬や体重減少が期待できる薬もあります。

<経口薬>
インスリン分泌促進系(スルホニル尿素(SU)薬、グリニド薬、DPP-4阻害薬)
 SU 薬では海外で肥満の2 型糖尿病患者さんを対象とした臨床試験で、体重増加を来すことが報告されています6)。同じインスリン分泌促進系でも、グリニド薬やDPP-4阻害薬は体重が増加しにくいと考えられています。

インスリン抵抗性改善系(ビグアナイド薬、チアゾリジン薬)
ビグアナイド薬では、食欲不振、消化不良、嘔吐や下痢などの消化器症状が現れることがあります。これらの症状により、食事量が減るため、体重減少が起こることがあります。チアゾリジン薬は、日本人でも体重増加が報告7)されていますが、その原因は、皮下脂肪へのエネルギー蓄積とナトリウム蓄積による浮腫と考えられています。

糖吸収・排泄調節系(α- グルコシダーゼ阻害薬、SGLT2阻害薬)  α- グルコシダーゼ阻害薬は、糖の吸収を抑えて食後血糖値の上昇を緩やかにする薬で、体重減少の報告は少ないですが、食欲の低下の報告があります8)。SGLT2阻害薬は、尿中に糖を排泄して血糖値を下げる薬のため、脱水による体重減少が投与初期に起こることがあります。その後、尿糖排泄の継続により内臓脂肪が減ることで体重減少に繋がると考えられています。

<注射薬>
インスリン
 インスリンには、蛋白質や脂肪酸の合成を促す働きがあるため、投与中に体重増加がみられる場合があります。

GLP-1 受容体作動薬
GLP-1 受容体作動薬には胃の運動を抑制する作用や食欲抑制作用があることが知られています。そのため、国内外で体重減少作用が報告されています。

糖尿病は、遺伝的な糖尿病の素因があっても、環境的な要因を作らなければ発症を予防することが可能です。特に肥満は糖尿病、高血圧や高脂血症だけでなく動脈硬化を起こせば心筋梗塞や脳卒中などの病気を誘発する原因となります。しかし、糖尿病のある方でも、日頃から食事量や運動量に注意し、標準体重をめざすことにより、良好な血糖コントロールが得られることも多々あります。標準体重を目標に、生活習慣を改善し、肥満を予防するようにしましょう。

 

糖尿病の治療薬と体重の増減

1)厚生労働省「平成29年国民健康・栄養調査の概要」
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000351576.pdf
2)一般社団法人糖尿病データマネジメント研究会:基礎集計資料(2017 年度)http://jddm.jp/data/index-2017.html
3)Sone H et al.: Diabetes Care 27(5) :1251-1252, 2004
4)Kodama S et al.:Epidemiology 24(5) :778-779, 2013
5)Sugimoto D et al.: J Clin Endocrinol Metab. 104(6):2325-2333, 2019
6)UK Prospective Diabetes Study(UKPDS)Group, Lancet 352(9131) :854-865, 1998
7)Kawamori R et al.:Diabetes Res Clin Pract 76(2), 229-235, 2007
8)Mikada A et al.: Diabetes Res Clin Pract 106(3), 538-547, 2014

 

中神朋子(なかがみともこ)
東京女子医科大学 糖尿病センター 内科

監修
東京女子医科大学 糖尿病センター 内科
教授・講座主任
馬場園哲也

編集協力
北野滋彦、中神朋子、三浦順之助、柳澤慶香
アイウエオ順

管理番号:JP19DI00051