低血糖の予防と対策
ズームアップインスリンNo.16

東京女子医科大学糖尿病センター
尾形 真規子

糖尿病の患者さんにとって低血糖は、お薬などで血糖値を正常値まで戻していく際に起こり得る副作用です。たとえ血糖コントロールが悪い状態でも、血糖を下げる薬を使用していれば起こす可能性があります。低血糖を起こさないためには、どんな時に低血糖を起こす可能性があるかを知り、予測して適切に対処していくことが重要です。今回は低血糖の対応と予防とについてお届けします。

低血糖の原因
 糖尿病の薬の種類や量は、患者さんの状態や生活を考えて処方されます。しかし、食事の間隔や運動量などにより、消費されたブドウ糖に見合うだけのブドウ糖が供給されないと、血糖値が下がり、低血糖を起こします。
 インスリンは腎臓で排泄されるため、また、肝臓や腎臓は糖を作り出す機能があるため、腎障害や肝障害のある方は低血糖が起こりやすく、また遷延しやすいといわれています。
糖尿病の薬を使っていなくても、インスリン抵抗性が強い方や、胃を摘出された方は、血糖から出遅れる形でインスリンがたくさん出るため、食事の間隔が空いてしまったり、次の食前に運動を行ったりすると、インスリンだけが残ってしまうため、低血糖を起こすことがあります。

 低血糖の症状 (個人差があります)  
 初期症状

手の震え
冷や汗が出る
無性におなかがすく

胸がどきどきする
頭がぼーっとする
 

 低血糖症状が進行すると: 
目の前が暗くなる、異常行動、昏迷 (わけがわからなくなる)、昏睡 (意識がなくなる)

 

 

低血糖の対処
 低血糖を自覚した際は、砂糖*や飴などすぐに血糖値の上がる糖質を摂ります。運動の前や次の食事まで時間がある時には、血糖値が持続するように、牛乳などの乳製品、小さいおにぎりなどを重ねて摂るのが、上手な補食といえます。低血糖が回復した後は、基本的には通常と同じように飲み薬を飲んだり、インスリンを注射してください。ただし、意識がなくなるような強い(重症の)低血糖や、補食しても繰り返す時は、必ず主治医の指示を受けてください。
 低血糖を繰り返したために、初期症状が感じにくくなっている方では、いきなり意識がなくなってしまうことがあります。このような無自覚低血糖がある方に対しては、ご家族のできる救急処置としてグルカゴン(血糖をあげるホルモン)の筋肉注射がありますので、主治医に相談してみましょう。時折、低血糖で意識がなくなった患者さんに、慌てて食物や砂糖水を含ませる方がいます。あやまって食物や水分が気道に入ると、肺炎を起こすことがあるので危険です。低血糖で意識をなくした患者さんをみつけたら、グルカゴン注射を打つか、救急車を呼ぶなど最寄りの医療機関に運びましょう。そして、必ず糖尿病で薬を使用していることを伝えましょう。迅速に低血糖に対処してもらうためにも、普段から自分が糖尿病患者であること、糖尿病の薬を服用していることやかかりつけ医と連絡先などを記載したカードを身につけていると良いでしょう。

*αグルコシダーゼ阻害薬を服用している方は、ブドウ糖を摂ることが大切です。

低血糖予防のために
 ご自身の糖尿病のお薬の働き、お薬を飲んだり注射した後、いつ頃、どのくらい血糖値を下げる効果がでるのかをきちんと知っておきましょう。個人差があるので、血糖自己測定のできる方は、お薬を使って食後に血糖値を測り、どのくらいの時間に、どのくらいまで血糖値が下がってくるか、また運動するとどのくらい下がるのか、実際に確認してみましょう。最近よく使われる超速効型のインスリンは、食直前に打てるので、速効型と比べ、食事内容により、打つ量の調整がしやすいのが特徴です。しかし、野菜など血糖が上がらない物から食べていると、食事中にも関わらず低血糖を起こすことがあります。ご自身の生活スタイルとお薬への深い理解は、よりよい血糖コントロールと低血糖の予防にもつながるのです。
 また、なぜ低血糖が起こったのかを考えてみましょう。食事時間のずれ、空腹での激しい運動など、自分の生活を振り返り、低血糖の原因を探ってください。規則正しい食事を心がけ、分食や補食で血糖値の低下を防ぐことが低血糖の予防の基本です。

生活上の工夫
 車を運転する方は、運転中の低血糖予防のために、運転前の血糖測定や、低血糖を起こしてしまった時のために、運転席からすぐ手の届くところに、そのまま口に入れられる補食を用意しましょう。ダッシュボードや後部座席では、いざというときに手が届きにくいことがあります。低血糖時は判断能力が落ちますので、速やかに安全な場所に車を駐停車し、ハザードランプをつけて補食などの対処をしましょう。また、補食後しばらくはそのまま、症状が無くなることを確認してください。症状が消失しても、目的地まで30分以上かかる場合は、近くで食事をするなど、甘い物に加えて血糖値が保てる物を重ねて摂るようにします。最近各車メーカーともに緊急時のサービスシステムが付いているものがあるようです。
 高所等危険箇所で作業をする方は、食後などの低血糖が起きにくい時間を選ぶか、作業前の分食や補食を心がけてください。備えあれば憂いなしです。
 プールやジムなどには食品の持ち込みが規制されるところがありますが、糖尿病であることを説明すれば、ほとんどの施設で砂糖や補食の持ち込みが可能になるようです。相談してみましょう。
 シックデイには高血糖傾向となることが多いですが、逆に食欲が落ち、低血糖も起こしやすくなります。血糖・食後の尿糖などをまめにチェックして、低血糖を避けましょう。ご自身の判断でお薬をやめずに、どうしたらよいかわからない時は、主治医と相談してください。
 アルコールは摂取後、血糖値は上がりますが、その後、急激に下がるという特徴があるので注意してください。
 寝ている間の明け方や夜間に頻繁に低血糖を起こす場合は、寝る前に乳製品などの血糖値が保てる分食や、薬の量や種類の変更が必要かもしれません。主治医とよく相談しましょう。
 よりよい血糖コントロールを維持できるよう、ご自身の生活スタイルとお薬の特徴を理解して、低血糖をうまく回避してください。