糖尿病について徹底解説。血糖値・HbA1cから
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運動療法と食事療法は糖尿病治療の基本です。運動が血糖コントロールにどのように影響するのか、また運動時の注意点について、東京女子医科大学糖尿病センター中神朋子先生にご解説頂きます。

糖尿病の運動療法には、すぐに現れる効果と、運動を継続することで現れる効果があります。すぐに現れる効果は、血糖値を下げる効果です。運動をして筋肉を使うと、血液中のブドウ糖や脂肪酸をエネルギーの材料として筋肉に取り込むため、運動中から運動後まで血糖値が下がる効果があります。運動を継続することで現れる効果としては、インスリン抵抗性の改善が期待できます。また、運動でエネルギーが消費されるので、体重のコントロール効果や、血行がよくなる、心臓や肺の機能が向上するなどの効果もあります。運動はストレス発散や気分転換にもなり、精神的にもよい効果があるので、糖尿病患者さんの血糖コントロールとともに、心と体の健康を導くことに寄与するのです(表1)

 

運動は有酸素運動とレジスタンス運動の2つに分類され、いずれも血糖コントロールに有効なことがわかっています。

<有酸素運動>
糖尿病の運動療法というと、ウォーキング、ジョギング、水泳などが一般的です。これらはすべて有酸素運動です。

有酸素運動は、大きい筋肉を使って行う全身運動で、十分に酸素を取り込むことで、筋肉に取り込まれたブドウ糖や脂肪酸をエネルギー源として使うことができます。2型糖尿病患者の方で、1日1回45分の運動をするよりも、1日3回食後に15分間の運動を行った方が、血糖値が改善したという報告があります1)。エネルギーは、運動開始直後から消費されるため、運動時間にこだわらず、自分の都合のよい時にできるだけ行うようにしましょう。食後1~2時間ぐらいの間に行うと、食後血糖値の改善が期待できます。

 

<レジスタンス運動>
レジスタンス運動は、腹筋、ダンベル、腕立て伏せ、スクワットなど、筋肉に負荷をかけて筋肉を増やす運動です。日本では、糖尿病の運動療法としてレジスタンス運動を取り入れている方は、8%程度という調査報告があります2)。しかし、レジスタンス運動は、筋力を維持したり、増強させたりするだけでなく、血糖コントロールに有効であることがわかってきました3)。糖尿病患者さんは、筋肉量が同じでも、筋力が低下している方が多いと言われています。特に高齢の糖尿病患者さんでは、有酸素運動ができる体を保つためにも、積極的にレジスタンス運動を取り入れたいものです。

レジスタンス運動は、踏み台を昇降するステップ運動、ゴムチューブやシリコンバンドを用いた運動など、家の中でも取り入れることができます。また、階段や坂道を上ることもレジスタンス運動で、速度を上げることで強度を調節することができます。

 

スクワット

<白筋と赤筋>
有酸素運動とレジスタンス運動では、使ったり鍛えられたりする筋肉が異なっています。筋肉は、主に速筋と遅筋という2種類の線維でできています。速筋は「白筋」とも言われ、レジスタンス運動などで糖質をエネルギー源として使う筋肉線維です。素早く収縮して瞬発的な力を発揮します。一方、遅筋は鉄を含むミオグロビンというタンパク質が豊富で、赤みを帯びているため「赤筋」と呼ばれます。遅筋は有酸素運動によって体に取り込まれた酸素を、ミオグロビンが筋肉細胞内のミトコンドリアに運び、脂肪と糖質を使ってエネルギーを作るため、持久力を担う筋肉線維です。

そのため、有酸素運動とレジスタンス運動の両方を行うと、どちらか一方だけの時よりも効果が期待でき、血糖値やHbA1c値が相乗的に低下することもわかっています4)

 

前述のように、ダンベルとウォーキングなど、有酸素運動とレジスタンス運動の組み合わせであれば、よりよいです。また、水中歩行は、有酸素運動とレジスタンス運動の両方の効果があり、膝に痛みのある方、肥満のある方でも、膝に負担をかけずに行うことのできる運動のひとつです。

運動の強さは、心拍数が目安になります。50歳未満の方では、心拍数が1分間に100~120拍、50歳以上の方では、100拍以上にならないように気を付けます。また、運動中に、「きつい」と感じる運動は強過ぎるので、「楽にできる」、「ややきつい」程度の運動が、およそ上記の脈拍数ということを覚えておくと便利です。

毎日運動することが理想ですが、有酸素運動は1週間に3~5回、計150分以上、レジスタンス運動は1週間に2~3回、同時に行うことが勧められています。ただし、自分の糖尿病の状態や合併症、基礎的な体力、年齢、体重などを考え合わせ、無理をせずに少しずつ運動量を増やすことが大切です。

 

日常生活の中で活動量を増やすことも運動療法になります。「日常生活での何気ない動き」が肥満の発生と深く結びついていることがわかってきました5)。痩せている方は肥満の方より、座っている時間が短く、立っていたり動いている時間が長く、その差は約350kcal/日にもなります。現状より2000歩分の(約20分)活動量を増やすことを目安に、毎日積み重ねることが大切です6)。また、歩数計の携帯により歩数が27%ほど増加するという報告もありますので7)、ぜひ歩数計も活用してみましょう。

 

階段を利用

インスリン分泌促進薬(スルホニル尿素(SU)薬、速効型インスリン分泌促進薬(グリニド薬)、DPP-4阻害薬)やインスリン療法を行っている方は、食前や空腹時の運動は低血糖を引き起こすことがあるので避けましょう。また、運動による血糖降下作用は12~72時間持続することがわかっているため、運動した時だけでなく、翌日も低血糖になる可能性があります。主治医と相談して、ご自分に合う運動時間を確かめるようにして下さい。

血糖コントロールが著しく悪い場合や、合併症のある方ではその程度によって、運動療法をしてはいけない、あるいは軽い運動の方がよい場合があります(表2)。どのような運動をどの程度行ってよいか、主治医や合併症の専門医と相談しながら、安全に運動療法を行うようにしましょう。

運動療法はスポーツとは異なり、血糖コントロールの改善を目的とした治療ですが、長く続けるためには、楽しむことも重要です。主治医や家族・友人に協力してもらいながら、自分の体調や好みに合わせた運動を続けていくようにしましょう。

 

 

1)DiPietroLetal.:DiabetesCare36:3262-3268,2013
2)田中好史:プラクティス32(2):145-147,2015
3)日本糖尿病学会編・著:糖尿病診療ガイドライン2016南江堂:68,2016
4)ChurchTSetal.:JAMA304:2253-2262,2010
5)RavussinE:Science307:530-531,2005
6)田中好史:プラクティス32(1):26-28,2015
7)BravataDetal.:JAMA298:2296-2304,2007

 

中神朋子(なかがみともこ)
東京女子医科大学糖尿病センター

 

監修 内潟 安子 [ 創刊によせて ]
東京女子医科大学
東医療センター 病院長

編集協力
岩﨑 直子、尾形 真規子、北野 滋彦、中神 朋子、馬場園 哲也、廣瀬 晶、福嶋 はるみ、三浦 順之助、柳澤 慶香
(東京女子医科大学糖尿病センター)
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