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糖尿病総論―高齢者と糖尿病

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糖尿病総論―高齢者と糖尿病

最近の厚生労働省の調査では、「糖尿病が強く疑われる者」が約1,000万人と推計され、1997年以降、調査のたびに増加しています。今回は、特に高齢化社会における糖尿病患者さんの療養について、東京女子医科大学糖尿病センター内科 教授・講座主任 馬場園哲也先生にご解説いただきます。

 

糖尿病とその予防と治療

私たちは食べ物から栄養素を吸収し、体の維持や活動に使っています。すい臓から分泌される「インスリン」というホルモンは、栄養素の新陳代謝に大きな役割を果たしていますが、特に重要な働きは、血液中のブドウ糖濃度を下げることと言えます。糖尿病は、このインスリンの作用不足によって起こる病気であり、血液中のブドウ糖濃度が高い状態が持続し、それによって様々な合併症が引き起こされます。糖尿病といっても、その原因や重症度、併発する合併症などは患者さんひとり一人で大きく異なります。例えばインスリン治療が生命維持のために必須な場合があったり、小児や妊娠中の糖尿病患者さんでは特別な配慮が必要になります。合併症についても網膜症、腎症、神経障害、脳卒中、心筋梗塞、末梢動脈疾患など、多岐にわたります。
このように、糖尿病は発症予防から診断、そして患者さんの日常生活を土台にした治療という流れのなかで、合併症を予防・進展しないように、ひとり一人の患者さんに沿った治療が必要となります。

 

変わりつつある糖尿病患者さんの未来

最近日本糖尿病学会が行った「糖尿病の死因に関する調査委員会」の報告では、糖尿病患者さんの平均年齢が、30年前の調査に比べ、男性で8.3歳、女性で10.2歳延びたことが明らかにされました1)。また、血糖コントロールの善し悪しと死亡時年齢との関連をみますと、血糖コントロールが不良であった患者さんはコントロールが良好であった患者さんよりも1.6歳短命であり、その差は血管合併症、とりわけ糖尿病性腎症による腎不全で大きいことがわかりました)。血糖のみならず、体重、血圧、血清脂質を良好に維持することは、糖尿病合併症を遠ざけ、健康な人と変わらない日常生活の質(クオリティオブライフ:QOL)の維持と寿命の確保に繋がります。

 

良好なコントロールのためにできること

では、血糖、体重、血圧、血清脂質の良好なコントロールを維持するためには何をすればよいのでしょうか。まず、第1に糖尿病を早期に発見し治療を開始することが最も重要です。合併症、特に網膜症や腎症などの予防には、HbA1c7.0%未満、空腹時血糖値130mg/dL未満、食後2時間血糖値180mg/dL未満を目標とします。次に、血圧、脂質、体重などの管理を徹底し、動脈硬化のリスクを減らすことです。特に血圧は、網膜症や腎症、心筋梗塞や脳梗塞などの発症や進行に大きく関係することがわかっているため、130/80mmHg未満を目標に、しっかりと管理することが大切です。また喫煙がこれら合併症の重大なリスクとなるため、喫煙している患者さんには禁煙を強くお勧めします。
もう一つ大切なことは、これらのコントロールが良好でも通院を中断することなく、合併症の検査を定期的に受けることです。

 

高齢の糖尿病患者さんで注意が必要なこと

高齢になると、糖尿病だけでなく、他の病気も多くなります。また高齢者では、体の機能や認知機能、生活状況など、様々な点で個人差が大きいという特徴があります。糖尿病の治療や合併症の予防についても、若い方と高齢者では異なる観点が必要なことから、日本老年医学会と日本糖尿病学会から、「高齢者糖尿病診療ガイドライン2017」2)が策定されました。
高齢者では腎機能が低下しやすいことや、高血圧や高コレステロール血症など動脈硬化の原因になる病気を併せ持つことなどに注意が必要です。

低血糖
高齢の糖尿病患者さんでは、低血糖がわかりづらく、その結果重症化しやすいという特徴があります。その原因として、典型的な低血糖の自律神経症状である冷や汗や動悸、手のふるえなどの症状が少なく、一方、めまいや脱力感、目がかすむなど、高齢者独特の症状が出現する場合、低血糖に気が付きにくいということがあります。

認知機能の低下、認知症
高齢者糖尿病の方は、糖尿病でない方と比べて、認知症や認知機能の低下が起こりやすい傾向があります3)。認知機能が低下すると、食事療法や運動療法、インスリンを含めた薬物療法などの治療が自分では難しくなることがあるため、周囲のサポートが必要になります。また認知症がある場合、低血糖になりやすい傾向があるため、認知機能の程度を考慮した糖尿病治療が必要となります。

転倒・骨折
高齢者では、転倒・骨折のリスクも高くなります。神経障害や網膜症、骨粗しょう症などがある方では、起立あるいは歩行の際バランスを崩しやすく、つまずいて転倒した時に骨折しやすくなります。骨折を機に、寝たきりになってしまったり、活動的な生活ができなくなり、筋力や筋肉量が低下して日常生活に支障をきたす患者さんも少なくありません。

 

糖尿病総論―高齢者と糖尿病

治療薬の進歩

糖尿病治療薬には経口薬と注射薬があります。現在、経口薬は①インスリン抵抗性改善系、②インスリン分泌促進系、③糖吸収・排泄調整系の3つに、注射薬は①インスリンと②GLP-1受容体作動薬の2つに分類されます(表)。
経口薬では、最近低血糖や体重増加といったリスクが極めて少ないDPP-4阻害薬とSGLT2阻害薬の登場で、大きく治療が変わりました。また、2種類の薬が1錠で服用できる配合薬は、患者さんにとって服用錠数を減らせるメリットがあります。
注射薬では、より速く作用するインスリンや、逆により長時間作用するインスリン、さらには短時間と長時間作用するインスリンを組み合わせた製剤など、患者さんにとって投与回数が少なくなったり、よりよい血糖コントロールをめざす製剤が登場しています。
いずれの薬も患者さんそれぞれの病状や薬の特徴により、使い分けられています。主治医の指示に従って、治療を続けることが大切です。
高齢化社会が進み、糖尿病と共に過ごす時間も長くなっています。合併症のない将来をめざして、良好な血糖コントロールと生活習慣を保ち、定期的な検査で合併症の予防と進行を阻止するようにしましょう。
本冊子には「コンシェルジュ」という頁を新設しました。宿泊客の様々な相談や要望に応えるホテルのコンシェルジュのように、高齢の糖尿病患者さんの「ちょっとした疑問」、相談や要望にお答えするコーナーです。年齢にかかわらず、ご参考にしていただければと思います。

 

糖尿病の治療薬

 

1) 中村二郎 他 糖尿病 59(9) 667-684, 2016
2) 日本老年医学会 日本糖尿病学会編・著:高齢者糖尿病診療ガイドライン2017, 南江堂
3) 日本糖尿病学会編・著:糖尿病診療ガイドライン2016: p411, 2016 南江堂

 

 

馬場園哲也(ばばぞの てつや)
東京女子医科大学 糖尿病センター 内科
教授・講座主任

監修
東京女子医科大学 糖尿病センター 内科
教授・講座主任
馬場園哲也

編集協力
北野滋彦、中神朋子、三浦順之助、柳澤慶香
アイウエオ順

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